第40話嫉妬心

自宅のリビングのソファで、スマホをいじっていた。みーちゃんとの連絡をずっ〜と返していた。



「お兄ちゃんちょっと〜ずっと彼女と喋ってるぅー。

もう無視しよ?」


莉菜ちゃんがやきもちを妬いてるのだろう。だがしかし、距離を置くことにしたんだ。


「いや〜彼女を優先するのは、彼氏の努めだから。」

正直気が紛れるんだ。


莉菜ちゃんと話していたら、俺の頭はおかしくなる。何度莉菜ちゃんと頭の中でキスしたことを思い浮かべたか。キス以上のことでさえ考えた。



「むむむ、私のこと好きな癖に〜そうやって誤魔化すんだ?」


彼女の見透かした言葉に俺は、胸が張り裂けそうになった。



「わかってるなら、誤魔化すのに協力してくれよ。莉菜ちゃんは、俺の妹なんだからさ。」


莉菜ちゃんには、視線をやらずにスマホに向かって言った。



「お兄ちゃんの事大好きなのにさ、そんな協力出来ると思う?」

妹がため息を吐いて言う。


…そんな事言うなよ…つらい…そうだよ。俺は自分の気持ちを誤魔化している。


なんて返事をすればいい? みーちゃんにも返信しなきゃ。


「私のこと好きな癖にか…そんなにあからさまか俺? なぁ俺にどうしろと?」

苛立ちながら言った。

こんなに俺は理性的に頑張ってるのに。



「…彼女と別れて、私と付き合う。それをして欲しい。」

莉菜ちゃんが俺の隣に座って言う。


その時電話が来た。ナイスタイミングだな。みーちゃんからだ。


「わりぃ、彼女から。話はまた後な。」

俺はソファから立ち上がって逃げる様に、自分の部屋に入った。


途中莉菜ちゃんの表情が見えた。怒っていた。当然だ。


…もう無理かもしれない。兄妹に戻るのは不可能じゃないか。その考えが脳裏を過ぎる。





荒川美沙希の視点



ふざけやがって! 私は怒りが心の底から湧き上がって来た。


まーちゃんの部屋に仕掛けた盗聴器から、聞こえた、彼の義理妹の声…彼女と別れて、私と付き合え? 私は近くにあった枕を投げて、それに怒りをぶつけた。


はぁはぁ、すぐに私はスマホで彼に連絡を取った。


怒りを鎮めなきゃ…彼の声を聞けばこの苛々も落ち着くはず。彼の声は、私の1番の薬。


フフフ、まーちゃん愛してるからね。


「よっ、みーちゃん急に電話掛けてくるからびっくりしたよ。でも俺にとって都合のいいタイミングだから良いんだけどさ。」


そりゃそうだよ。盗聴してるんだもん。あはっ、絶対あの女にチャンスはやらない。

良い雰囲気に持っていこうとしたら、電話してやる。


「ごめんね、まーちゃんの声聞きたくて。これから冬休みであんまり会えなくなりそうだし、毎日電話したいな。」


本当は、毎日会いたい。彼の自宅に遊びに行きたい。でもあの女に会いたくない。今度こそ怒りが爆発して何をするか分からない。



私とまーちゃんの仲に突然入って来て、彼の心を奪おうとする。


「…疑問に思ったんだけどさ、なんで俺にそこまで好意持ってくれるの? 俺モテ期なんかな? なんてな。教えて欲しい。」



「まーちゃんは、優しく私を包んでくれて、聞き上手で、マメなところが好きなの。最初会った時のこと覚えてる?」


「あー、覚えてる。みーちゃん泣いてたよね。俺がなんで泣いてるのか聞いたな。それが聞き上手だってことか。」


「うん、親の罵声に限界来てて、死のうかと考えてて、その時まーちゃん優しく聞いて、アドバイスしてくれたよね。それから、もうこの人しかいないってなったの。」



「まぁな。親父が警官だから、なんかあったら、頼んでやるよって言った覚えはある。親父の力頼り」


まーちゃんは笑って言った。私も彼と一緒になって笑った。


うふふ、まーちゃん。こうして笑え合えるのが何より私の幸せ。ああずっと電話していたい。

むしろ会いに行きたくなる。


その時、あの女の声が聞こえた。



「お兄ちゃん、ちょっと話したい。駄目かな?」


引っ込んでててよ。鬱陶しい。まーちゃんは、私のこと愛してるから、当然断るはず。


「ごめん、妹が用があるみたいだから切るわ。」



…は? え…ちょっと…なんで…どうして切るわけ?


私は悔しくて涙を流した。うぅ、義妹に負けるなんて。


私はそれでもすぐに盗聴を始めた。


何もしないよりは、情報を掴んで利用する。

私がこんな事してるのも全部あの女のせい。

まーちゃんは悪くない。



でもね、まーちゃん浮気したら絶対に許さない。女が悪くても、浮気したら、私生きてられないから。


「お兄ちゃん、彼女さんと話してて楽しい?」


「そりゃそうだよ。楽しいよ。」


「私と話してるより?」


「はは、そんな訳ないよ。莉菜ちゃんと話してる方が楽しい。」


はぁぁ! ふざけんなぁー! 

妹に好きな人取られて、今度は彼氏の妹に取られるの? 嫌だ、絶対嫌だ。


「やった〜。えへへ。お兄ちゃんにそう言って貰えて嬉しいな。お兄ちゃんラブ。」


盗聴器から聞こえる2人の楽しそうな声が、私の想像の中でリアルに浮かんでくる。


それが私の心に深く、傷を与える。


好きな人を取られた苦しみが襲ってくる。もうそんな思いはしたくない。


「で? 話があるって言ってたけど、何かな?」

まーちゃんが義妹に用を聞いていた。


「うん、クリスマスまだ先なんだけど、私と彼女どっちと過ごすのかなーって。」


ふざけないで。私と過ごすに決まってるじゃない。そうよね? まーちゃん。

そう思っていたが…義妹を選んだらと考えると、まーちゃんの次の言葉を待つ間、心臓が緊張感で痛みが走った。  



「そりゃ、彼女と過ごすに決まってるじゃん。クリスマスだぞ? 家族で過ごすはないよ。」

まーちゃん! よっしゃぁー。私は叫んだ。


ざまぁみろ! まーちゃんの義妹め。私は歓喜に酔いしれた。



その酔いを覚ましたのは、母だった。


「うるさい。騒ぐんじゃない! ガキじゃあるまいし。本当どうしようもない子。」


ドア越しで怒鳴られた。


くっ…でも私は勝利した。その余韻に浸りながら、まーちゃんの台詞を何度も反芻した。


義妹への嫉妬が、甘美な満足感へと変わる。

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