第12話狂気の咆哮と警告

ははは、あなただって、良かったな。社長さんの娘さんに気に入れて。

何も事情を知らない、父さんが言った。



まるでホラー映画のワンシーンの様だった。


どうしよう…父さんと一緒にあゆみと話すか。いや、こんな話、父さんには聞かせたくない。



「父さんちょっとあゆみと2人にしてくれないか?」

僕はそう言った。



「叔父様素敵な方ですよね。西条さんに似てますね。」


この一言で僕は被害妄想的なことを考えた。あゆみが僕の父さんと再婚するんじゃないかと…お母さんと一緒にとかなんとか。



あり得ないけど、それくらい僕は、あゆみを恐れていた。呼吸がつらい。


あゆみの極端な性格は、予測出来ない。

彼女と関わっていたら僕までおかしくなる。



「はは、ありがとう。じゃあ2人きりで仲良くな。俺は、ちょっと出かけて来るから。」



笑いながら父さんがリビングから去った。

待って…あゆみと2人きりになるってこと?



「何故ここに? 君とは終わったんだよ? 正直なところもう会いたくないんだ。」


僕は彼女に、関わり合いにならいで欲しいと

願いを込めて言った。


僕はリビングに立ったまま、彼女は座っている。椅子に座る気すらしない。




「彼女が彼氏の家に来るの、当たり前じゃない?」

冷静に彼女は言ってのけた。彼女は、現実が見えていないのだろうか。



「別れたんだって僕たちは!」

僕は再度伝えた。声を張り上げ、聞こえないと言われない為に。



「別れてないよ? 何言ってるの?」

彼女が不思議そうな表情で言った。


それは僕が聞きたいよ、何言ってるの、君は?



「はぁ、だいたい、好きって言ってた大川って人は、どうしたんだよ?」


彼の元に言ってくれ、そう思いながら僕は聞いた。本当に彼とはどうなったのか? 彼の側にいて欲しいんだ。



「誰それ?」

彼女が知らないと、とぼけてる。僕はそう思った。


「あゆみの浮気相手だよ!」

怒りに震え、ふさげるなと眉間に皺寄せして言う。


「あー捨てた、捨てた。西条浮気相手の心配するなんて、やっぱり優しいね。」


簡単に彼女は、人を捨てれるのだろうか?  

君はなんて非道なんだ。

その残酷な性格に、身の危険を感じた。



「よく簡単に別れられたね? 引き止められなかったの?」


僕は彼女に質問した。彼が引き止めなかったら、捨てたって言うのは、おかしいなと、思いながら、彼女の返事を待った。


リビングの静けさが、不気味な部屋に閉じ込められた様な感覚を僕にさせた。その感覚が、彼女と2人でいる絶望感をひしひしと伝えてくる。



「別れたんじゃなくて、捨てたの。連絡ブロックしたし。でもしょうがないよね? 西条の彼女の私に手を出したんだから。」



彼女の言葉に僕の周りに死神がまとわりつく様な、幻影が見えた。


あまりの恐怖に僕は、泣き出してしまった。



円香ちゃんごめん…ヤバさのレベルが違うって言って。あゆみのがずっと怖い。



「西条ってば、泣くほど私が戻って来てくれたのが嬉しいんだ?」


彼女の自分勝手な妄言に僕は、立ち向かわないと…本当に僕までおかしな人になる。



「…とにかくもう…何度も言う。僕たちは、別れたんだ。君の浮気が原因でね。」



「西条も浮気したのに許さないのおかしくない? そうか! 私に冷たくして、好きになってもらう作戦でしょ? 見破るの早いでしょ?」


彼女が嬉しそうに拍手をして言った。

拍手の音に僕は、恐怖を感じ、一瞬目を閉じた。


その時、玄関のチャイムが室内に響いた。


父さんか? ナイスタイミング。助かった。僕は急いであゆみを無視して、玄関に行った。


開けようとした時、あゆみが近づいて来る、足音が聞こえた。


急いで、ドアを開けた。そこに現れた子が天使に見えた。


中島さんだった。


「西条さん、ちょっと話しがあって来たの。」


中島さんが深刻な表情で言う。

その表情が驚きの表情に変化した。


それはあゆみを見て、そうなったと、僕は直感した。


「滝川さんいたんだ、ごめんなさい、私帰るね。」


そう言った中島さんを、僕は腕を掴み引き止めた。


嫌だ、もうあゆみと2人でいたくない。


「気にしなくていいよ。彼女とはもう別れたから。この人のことは気にしないで上がって。」

僕は、あゆみを見ないように言った。


中島さんを連れて、僕は自分の部屋に入って鍵を閉めた。


自分で大胆な行動だと思う。それだけあゆみを恐れているから出た行動だろう。


「中島さん、今日は何か話しがあって来たんだよね?」

多分彼氏のことだろうと僕は考えながら言った。


「ええ、その通りよ。私浮気のこと聞いて、西条さんに相談に乗って貰おうと思って。」

彼女は泣きそうな表情で、語ってくれた。


僕は胸が高鳴るのを感じた。彼女への同情心とその他の感情が押し寄せ、美しい人だと思わせた。


「中島さん!」

そう言って僕は、彼女をベットに押し倒していた。


「駄目よ、私まだ、彼と別れてないの。」

彼女が小さな声で、優しく囁いた。


「分かってるけど…僕は、君のことが。」

そう言って彼女に迫った。


「あっ…だめだよ…あの人たちと同じ仲間になっちゃうよ。」


「駄目って言ってるけど、抵抗しないのは何故?」

もう引き返せない。僕の感情は、爆発した。


「それは…だって…私。」



その時、僕の部屋のドアから、叩く音が聞こえた。


「西条! ドア開けて、出ないとドア壊すよ。」

あゆみの声が、狂気を帯びた咆哮に聞こえた。



僕は、はっとして、自分のしようとしたことを悔いた。

彼女の気持ちを無視していたと。


それから中島さんと僕は、部屋を出て、別れの挨拶を交わした。



「あゆみ、まだいたの? 早く帰って。」

僕は、彼女を見て言った。


「西条部屋で何しようとしてたの?」

彼女の目が嫉妬の炎を燃やしていた。


「なんでもいいだろ? 頼むよ。僕のことが好きなら、少しは言うこと聞いてくれよ。」

僕は、あゆみが僕のことを好きだと言う感情を利用した。


「分かった。じゃあ今日は、帰る。素直でしょ? なんていい彼女なんでしょ。」

助かった。僕は心から安堵した。


その時部屋から電話音がした。僕は部屋に入り、スマホを確認した。

佐野からだった。




「もしもし、僕だけど。」


「西条、実はな、大事な話しがあって。お前に忠告だ。中島レイナと、綾瀬まどかに気をつけろ。


「彼女達が、お前に姉の復讐とか言ってたのをこの前聞いたんだ。」



「なんだって?」


僕はそれを聞いてパズルのピースが揃った感覚に襲われた。


そうか…2人は繋がってたんだ。姉の復讐…あゆみをおかしくしたのは、彼女達だったんだ。


それで僕は、今の状況になってるんじゃ? 全て僕の予想でしかない。でもあっていたら…僕は何も彼女達に悪いことをしていないのに。


「ありがとう、佐野。」

僕は、頼れるのは、もう青木と佐野しかいないと、彼等に明日相談しようと思った。





あゆみの視点

2日後


滝川先輩ちょっと良いですか?

青木円香と言います。

屋上で少し話がしたくて。嫌とは言わせませんよ。

 

私の腕を掴んで、後輩の青木円香が話しかけて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る