第10話怒りと悲しみと恐怖

あゆみの視点

2日前


彼の提案を受けれてしまった。

受けなければ、良かったのだろうか? でも、そうしたら、西条を中島に取られていた。



彼は、クズだ。私にはわかる。私の弱点を上手く突いてきた。

拒否したら、中島と別れる…認められない。



そして彼の演技に付き合ってそのままなし崩し的に、彼としてしまった。


今彼の自宅の寝室にいる。ベットには彼が横にいた。




なにこいつ。エッチうますぎなんですけど…西条と全然違う…そう思ってしまった。


それだけじゃない。西条と彼を比べたら、全部彼が上。


顔、スタイル、話術…どれを取っても勝ってるとこがない。


少ししか経ってないのに、彼に恋をしてしまった。西条のことなんてどうでも良くなるぐらいに。


私は彼の隣で横になり、天井を見上げた。部屋は静かで、時折彼の均等な呼吸の音が聞こえる。


私の心臓は、燃え上がる様に打っていて、彼の温かい体温が、更に気持ちを昂らせ、鼓動を早くさせる。




私は、自分の心情が急激に変化することに戸惑いを覚えた。大川とこのまま結婚して、素敵な家庭を築ければ、そう思う。


彼のお陰で私の心は満たされた。

好き…大川のことが好き。


彼の寝顔は穏やかだった。その顔を見ると心が落ち着く。


…でも? そう違うんだ。大川の好きと西条の好きは違う。満たされて冷静になれた今は、分かる。


西条のことを、ふと考えた。その瞬間私の脳が興奮で満たされた。




彼のことは、純粋に好き。でも殺したいほど好き? 違う。大川のためなら死ねる? 無理。


西条に死ぬ程今…会いたい。私の頭が彼を求めている。



彼が別れたいと言えば、仕方ないね。それでも良い。でも…西条に別れてと言われたら、嫌だと心の底から言える。

 



そうだ…私は西条に依存しているのかも。





西条の視点

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「僕はあゆみを問いただした。

何故2人でキスを? ここで一体何やってるの?」


それに対して2人は驚きもせず、あゆみは、面と向かって言った。


「あっ、西条〜何って好きな人とキスしてだけだよ? 」

彼女は、平然として言った。


「好きな人とキス? そうかい、僕のことはもうどうでも良くなったんだな。」

僕は投げやりに言った。

彼女の言葉に僕の心は怒りに震えていた。



「ううん、違うよ。西条が浮気したから私も仕返ししただけ。どう? 悔しい? つらい?」

彼女が僕の顔を覗き込んで言った。



「何言ってるんだ? 僕は浮気なんてしてない!」

僕は怒鳴って言った。


周囲の人がその声に反応してビクッと驚いたのが見えた。



「嘘つき! 中島さんと浮気した癖に!」

彼女が僕に向かって、大声で言った。



全く見に覚えがない事を言った。

もしかして、綾瀬桜に何かまた、吹き込まれたか? 僕は怒りに身を任せず、冷静に考えた。





「してないって。何を根拠に浮気したって言ってるのか、だいたい、あゆみ開き直って言うことじゃないだろ?」


穏やかに努めて言った。だからと言って、心は穏やかじゃない。心臓の鼓動が早くなり、今にも吐きそうなぐらいつらい。



「大川先輩が言ってたよ。中島さんが、大川先輩紹介する時、恋する様な目で中島さん見てたって。ねぇ大川先輩?」


大川? くっそ浮気相手に確認する様に言った。



「ああ、間違いなく見てた。レイナをいやらしい目で見ていたよ。確かに僕達は、浮気した。けど、きっかけを作ったのは君じゃないか。」

僕を追求する様に言う。



彼の表情は、落ち着き払っている。それが無性に腹立たしくなる。





「…それは…僕だって男だから、そう言う目で見ることもあるだろうけど、それだけで浮気とか、きっかけとか、おかしいこと言ってるって自覚ないんですか?」


確かに見に覚えはある。あの時中島さんと彼に嫉妬の気持ちがあった。


けど、それだけだ。それ以上何事もなかった。


僕はちゃんと、あゆみの事ばかり考えていた。どうすれば元通りにやっていけるだろうか。


そう思うと悲しみで心が満たされて、僕はどうでも良くなってきた。


はは、なんだよこれ? 本当に現実? もしかしたら夢で覚めたら、あゆみの笑顔が僕だけに微笑んでくれるかも。


そう思っていたが、あゆみが僕を責める声にはっとして、現実だと知らせてくれた。



「他にもあるよ。西条私に黙って、中島さんと一緒にデートしたじゃん。浮気した癖に、私の浮気は許せないの? おかしくない?」




「あれは、きちんとあゆみに別れたいって言った。その後に中島さんと遊んだだけだろ。

僕の中では、きちんと終わらせてから遊んだんだ。」


僕はあゆみに伝えた。それにしても何故彼女は、浮気した事を謝らないのだろう? 

これはもう…僕の心が何か切れた音がした。



「そんなのが浮気って? もしそう思うなら価値観が違うよ。別れようあゆみ。」


僕は、目に涙を溜めて言った。本当は、今もう泣きじゃくりたい。泣いてつらい気持ちを捨てたい。



「待ってよ。価値観とかのせいで浮気じゃないって意味が分からないんだけど? 確かに別れたいって言ったよ、西条。」




「けど、私は嫌だったから断った。そんなの当たり前じゃない? 好きな人に別れたいって言われてそうですかなんて、すぐ言えないよ! 」



「次の日に遊ぶなら分かるよ。そのこと言われてすぐだよ? 即別の女の子と遊ぶなんて浮気だもん。」


彼女の声が、言葉が虚しく僕の耳に伝わる。

僕はもう完全に、彼女に愛想が尽きた。



「あゆみがそう思いたいなら、そう思えば良いじゃん。もういいよ。あゆみが自分勝手な子だってもう…今の状況ではっきり分かった。」



「とにかくもう関係は、持ちたくない。本当に別れて欲しい。」


頭を下げて僕は言った。なんで浮気された僕が、頭を下げなければいけないんだろう。



「嫌だ、別れない。」

彼女は首を横に何度も振り言った。



「じゃあなんで浮気なんてしたんだよ? 意味が本当に分からない。」


教えてくれよ、なんでなんだよ! なんで…




「それは、西条がエッチ拒否したり、連絡くれなくなったりしたからだよ。自然消滅狙ってるかとか想像して、怖くて、寂しくて、追い込まれたからだよ。」


彼女は、自分のした事を理解してるのだろうか? 全部僕のせいだと?


「当たり前だろ! コンドームに穴開けたり、とんでもない量の連絡くれればそうなるよ普通。」

僕は、彼女に怒って言った。



「西条見てたんだ、私がゴムに穴開けてるの。それなら言ってくれれば良かったのに、そしたら私もうやらなかったよ。なんで言ってくれないの? 悪いところあったら直すよ。」



「言われなきゃ…わかんないよぉ。」


彼女が泣いて言う。泣きたいのは僕だよ。



「あの、ちょっと良いかな?」

大川さんが言った。



「あんたは黙ってて!」

あゆみが嗜める様に言った。


浮気相手に対してその態度なのが、僕には不思議に見えた。

 


「悪いけど、僕にも意見があるからね。黙ってって言われて、はいそうですかとは言えないんだ。」

大川さんが怯まずに言った。



「ごめんなさい、つい。でも西条と2人で話したいから、西条に別れられたら、あなたを一生恨むから。」



「それは困ったな。僕も超能力じゃないから、西条君の気持ちまでは、操れないよ。」

彼の表情は、先ほどまで冷静だったが、困惑の色を浮かべていた。


当たり前だ。あゆみを上手く操縦しようなんて。彼もあゆみには、寂しさを紛らす駒の一つに過ぎないのかもと、僕は思った。



「…確かに僕も悪いところはある。連絡多くて困ってること言わなかったのは、落ち度あるよ。けど言わなかったのは、あゆみの事が好きだったからだよ。」



「せっかく僕の事好きなあゆみに連絡多くて困ってるなんて、気楽に言えないよ。」



「それとゴムに穴開けたのは、別問題だよ。裏切り行為を言えば良かったって? 言う言わないの問題じゃないんだよ。」


僕は浮気相手を軽く扱ったことに、少し気持ちが楽になったのかも。きちんと彼女に説明出来た。


これであゆみも、僕の大変さを少し分かって貰えるだろうか?


分かってくれれば、まずきちんとあやまって欲しい。それから別れて…距離を置いてまた、友達から、やり直す。


それもありかもしれない。そう思ったが、彼女の思いやりの一つもない言葉に僕は、身体の底から嫌悪感を覚えた。




「ふふふ、私嬉しい。西条がはっきり色々言える人に成長して。私が浮気したおかげだね。感謝して?」

あゆみが微笑んで言った。

僕は、それを聞いてあゆみに失望した。


僕の中で何かが壊れる音がした。



無理だ。もう話が通じない…嫌だ怖い。



僕は後退りをして、はっきりと言った。


「あゆみ、君とは別れる。もう関係は終わりだ。」


そう言って僕はその場から逃げる様に立ち去った。


そうしなければ、僕の答えは、拒絶されて、関係が終わりに出来ないと思ったからだ。



僕は自宅に戻り、夏にも関わらず、毛布に包まって震えていた。


それは、今日彼女が家に来て、僕を殺しに来るんじゃないかと怯えていたからだ。


しかしそれは杞憂だった。僕は朝起きて、ほっと安心して学校に向かった。


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