メノウのミラージュ (短文詩作)

春嵐

第1話

「綺麗だった?」


「うん。きれいだった」


「何の意味もない手掛かりだな」


 人ではないものを追っている。街中。夜。ネオンの灯りと、星空。この街ではネオンライトのなかでも星空がよく見える。ネオンにそういう光源を使っているらしい。


「でもきれいだったんだよなぁ」


 目の前を歩く、この男。こいつがわたしの恋人で、今回の追撃任務の随伴。わたしはこいつを守りながら、こいつの索敵を待つ。そして見つけたら、位置を組織に送信。そうすると、哨戒の連中がこぞってやって来て、人ではないものを壊す。


「反射とか、なのかな。きれいだったってことは」


「おお」


 初めてそれっぽい手掛かりが。


「いやちがうか。暗かったし」


「なんだ。暗かったのか」


「うん。買い出しの途中に見つけただけだし。まさか人ではないものだとは思わなかったし」


 でも。RCC(※人ではないものを測定する値)は大きくマイナスだった。つまり、その時間、人ではないものはここの近くに確実に存在していた。


「物陰、とかか?」


 暗がりのなかにいるなら、物陰だろう。とはいえ、この街に暗いところは少ない。組織で使う裏路地はあるが、組織しか使わないのですこぶる安全。せいぜい負傷した味方が倒れるとかそれぐらい。


「物陰、かぁ」


 わたしの伴侶の男。何かに気付いた顔。


「なんで暗がりがあったんだ?」


「ん?」


「日中。買い出し。この場所。暗がりなんて存在しない。そもそも暗い場所はない」


「何言ってんだ。日陰とかそういう」


「ちがうちがう。暗かった。めっちゃ暗かった。前提が違うんだ」


 わかった。そして、ちょっとやばいということもわかった。


 すぐに通信。


『なんだ。見つかったか?』


「逆だ逆。わかった。でかいんだ。この区画を覆うぐらい、敵がでかい。すぐにマイダーリンを連れて撤退する」


 間に合わないかも。

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