41 冬川 学校祭を楽しむ

 秋の試験が終わると、夏焼の名前はやっぱり上位者に載っていたし、学校中が学園祭モードになった。みんなどこか色めいていたし僕たち三年生は最後だからとにかく気合いが入っていた。


 Aクラスは焼きそばを販売することになった。僕や山本くん、田口さんと咲子ちゃんたちは消耗品と機材の手配担当になった。夏焼や雅也たちは有志でバンド参加申し込みをし、放課後は練習に励んだ。みんな準備に忙しくて、ツルむ時間は減ったけど、僕はみんなと顔を合わせれば気軽に声をかけるようになっていた。そんな自分の変化にちょっと驚いている。


 学校祭が始まると、Aクラスは交代で店番をやった。僕は腕時計をチェックし、別の奴に店番を代わってもらった。途中で雅也の彼女である梢ちゃんと鉢合わせ、体育館に向かった。薄暗い体育館に着くと、田口青葉の姿が見えた。背が高いし後ろ姿でも目立つってすごいな、なんて思いながら合流する。咲子ちゃんもいた。


 ちょうどそのタイミングで、ステージにバンドメンバーがやって来た。初めて知ったけどちゃんとバンド名があって『爆裂!!ロドリ下衆』っていうんだって。誰が命名したんだろうね、って田口さんが言うから、僕は「絶対に雅也と夏焼の悪ノリだ」と言った。いつのまにかやってきた山本くんがウンウン頷いた。


 小林がドラムセットに納まるだけで、黄色い声が上がる。たぶん一年生のファンだ。夏焼が姿を見せた。満面の笑みで客席を見ている。たぶん僕たちを探しているんだ。背の高い田口さんが合図すると、夏焼は僕のことも見つけて全身のバネを使って手を振った。隣で咲子ちゃんが微笑ましそうにしている。

 雅也と肥後がでてくると、梢ちゃんがピースした。最後にボーカルの陣野くんだ。そういえば全然喋ったことないなぁ。


 ”はじまる”前の高揚感がたまらない。目に見えない音を全力で奏でる瞬間がたまらない。全員がポジションについたのか、五人がアイコンタクトをとった。


 夏焼を見ると、驚くほど真剣な顔をしていた。っていうかたぶんアレ、めちゃくちゃ緊張しているんじゃないか。大丈夫かあいつ。普段の全力っぷりはどうしたよ。僕まで緊張してきたじゃないか。


 僕は無意識に両手で拳を握っていた。心のなかで「がんばれ~!」と普段は言わないことを唱え続けた。ひょっとしたらまた無意識に心の声が出ていたのかもしれない。夏焼が僕を見てニカっと笑ったところで、体育館中にバスドラの音が響いた。


 僕の、みんなの鼓動を打ってるみたいな強い音だ。雅也がギターをかき鳴らして、肥後がベースを弾いて。夏焼がキーボードでコードを奏でて。


 陣野がゆらりとマイクスタンドの前に立つ。

 そして陣野は息を吸うと同時に顔を上げ、体育館中のお客さんの視線をかっさらってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る