8 夏焼 放課後 帰り道
……。
意図的にゆっくりやろうとすると、どうして時間経過を早く感じちゃうんだ?
俺がノートに漢文訳を書き出していると、国語の神崎先生がやって来た。目の前に立たれるまで俺はまったく気づかなかった。
「熱心に勉強してるとこ悪いけど、そろそろ閉じなきゃいけないから……」
「えぇ~、もう?」
俺は眼鏡を外して腕時計を見た。あっという間に夜になっている。つまり家に帰る時間だ。俺が文句を言っていると、神崎先生はクスリと笑った。
「夏焼くんも変な奴だな。三年生って、そりゃ勉強熱心になるのもわかるけど。そんなにがっかりしなくても」
「ちょうど漢文をノリノリで現代語にしてたとこだったんすよ。見て!」
神崎先生にノートを見せると、先生はそれを眺めてウンウン頷いた。
「できてるよ。これ難しいやつなのに、よく頑張ったね。次の試験でいいとこ狙えるんじゃない?」
「だろだろ~」
「じゃ、時間だから片づけて」
「……はぁーい」
俺は観念して鞄にノートや筆記用具をしまった。席を立って見ると、外は夏らしく、まだうっすらと明るい。まだこんなに明るいのにもう帰るのか。窓の外からは生徒達の声が聞こえる。一、二年の陸上部かな。大会近いもんな。
図書室を出る時に、神崎先生は「気をつけてな」と俺に声を掛けた。俺は茶化して「なぁ、飯食っていかねぇ? 俺のオゴリで!」と返事をした。
「馬鹿。どこに学生に飯を奢ってもらう教員がいる。暗くなる前に帰りなさい」
「じゃ、俺が二十歳になったら行こうな。ありがとな先生、また明日」
神崎先生は俺に笑顔で手を振ってくれた。でも校舎を後にする頃には、俺の足取りはすっかり重くなっていた。
電車に揺られて最寄りの駅で降りた。俺はコンビニに寄って、簡単な夕飯のかわりになるものをいくつか選ぶ。住宅街が広がる東区は車で移動することが前提で街ができていて、コンビニも少ない。ここを逃せばチャリか車で買い出しに行く羽目になる。
日が暮れても暑いものは暑い。俺はさっき買ったアイスをかじりながら家までの道を歩いた。こうやって自分にご褒美でもあげなきゃやってられないって気分だ。夜のいいところは、昼みたいにアイスがどろどろ溶けないところだな。この果物シリーズ美味いな……。
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