第27話 身支度
プリムラによると、不正出版物の製造場所と実行犯の居場所は、すぐにあたりをつけられるということだった。
水や汚れから紙を守る必要があるために、ある程度の広さの屋内である。そして、孤立した一軒家は目立つので、建造物の密集地であることが多い。そうなると、犯罪集団が拠点としているスラム街に自然と絞られてくる。それらの地名を、魔道士である自分たちがしらみつぶしに唱えていけば、そのうち正解にたどりつくというわけだ。
こうして導き出された目的地は、イーストスラッグ。カークシティの外れの貧民窟だ。
リュウは傘を新調するためにマロリー&ハンウェー商会を訪れたが、訪問の目的を聞いたハンウェーは、二人をおしとどめようとした。
「おまえら二人でイーストスラッグへ行く? やめとけ。そういうのは警察みたいな奴らに任せておけばいいんだ。君が作家だとか、そういう事情はわかったよ。だけどな、あそこはおまえらのように清らかな人間が行くべき場所じゃない」
「自分で言うのは恥ずかしいですが、僕は位階の高い魔道士です。危険には対処できるという自負があります」
「そういう問題じゃねえんだよ」
ハンウェーの表情は険しくなった。口調は強い。人差し指でリュウの胸元をこづいて、苛立たし気に言葉を重ねた。
「そんなに立派な士官様の制服で行くのか? そっちの嬢ちゃんは真っ赤な可愛いおべべで行くのか? 自分たちがどういうところに行こうとしてるのか、わかってねえだろ。スラムに行くならもう少しそれらしい服を用意しろ。話はそれからだ」
リュウは、くたびれた野良着を転送魔術で呼び出した。雪原地帯で防寒具の下に着ていたものだ。宮殿の自室にしまい込んでいた。
プリムラは粗末な衣類を持っていなかったので、ハンウェーが着古した作業着を譲り受けた。サイズが全く合わないが、袖や裾をまくり上げて着ることでみすぼらしさが増して、目的には適っていた。髪飾りを外し、髪を雑にひっつめて結び、帽子を目深にかぶった。
二人が着替えても、ハンウェーはまだ渋い顔をしている。
「うーん……清潔すぎる。こればっかりは今すぐにどうにかできるもんでもないか」
「僕は傘を買いに来たんです」
「ああ、そうだったな。何色にする?」
「白を二本」
会計を済ませたリュウは、一本をプリムラに渡した。
「これはあなたの分です。あなた自身の手で
「デ、デプロイメント……? あたしが書く……?」
プリムラは聞きなれない用語に目をぱちくりさせる。
「五段階術式で、最も重要で最もめんどくさく最も間違いやすいのが
存外プリムラの飲み込みは良く、すぐにこの新しい手法に納得したようだった。
「先輩が
「書いてほしいのはオーソドックスな転送魔術だ。何かあったら、すみやかにイーストスラッグから離脱したい。宛先指定はフラッドリーヒル。対象指定はプリムラ・プロウライトとリンドウ・リュウ」
「俺も、ジョナス・ハンウェーも加えてくれ」
突然名乗りを上げた傘屋に、二人の魔道士の視線が注がれた。
「俺の傘がどんなふうに使われてるのか、実地で見せてくれよ」
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