導きのファイバー〜異世界転生したらロボットに乗って戦うらしい〜

デルタイオン

第1話 あの日夢見た景色が

もしも生き返る事が出来たなら、俺は自由に生きていきたい。


仕事に追われ休む暇もなく楽しみより仕事に人生を支配される。俺はもう……


事故だった。点滅している青信号で渡っていると転んでしまった。起き上がると撥ねられ車はそのままどこかへ去っていった。


走馬灯か……意外にも自分には思い出す事があるらしい。


親が俺を見る。子供の時の記憶……なにかが違う、これじゃない。



学校への通学路を親友と共に歩く………数年後に裏切られ俺は借金を背負う。




裏切られた後、俺は町中を歩く……待て。少し戻ってくれ。


何か見落としてないか?今の記憶になにか……無いか。



雪が舞い降りる。


この記憶はあまり見たくなかった。


母親はこの冬に病気により死んだ。父親はそれを追って……


葬式か。知らない顔の人も泣いている。


この景色が俺の見たかったものか……?



違う


今一番見たいのはここじゃない。


家の中……自分の部屋。


棚の中に飾っているこの模型。


ロボット………数年間ずっと大事にしていた宝物。


ああ……あの主人公機。俺はあれに乗ってみたかった。だから様々な事を覚えて……


『そうですか。わかりました。では、次の人生をお楽しみくださいませ』


誰だ?おい、待て。待ってくれ。


突然映像が途切れ、真っ暗闇を高速で移動しているかのような感覚。遠のいていく……


「なにを……」


背後が光り輝く。そして、全てが明るくなったその時。俺は産まれたんだ。


新しい世界に俺は生まれ変わった。だが、厳しかった。


俺が産まれたのは貧民街。母親はまた病気で死んだ。


助けられなかった。手足が動くというのにあの時をまた繰り返した。


食料や水にありつくために力を付けた。脳がどれだけ発達してようが、力がなければここではゴミだった。


そして、職にありついた。荷物運びだ。


中身は危ないものなんだろう。知らないほうが良いと自分を言い聞かせ危ない橋を渡り続けた。


だが、遂に運が尽きた。


荷物が危険物でそれがバレて俺は牢獄に。適正やらなんやらを調べ上げられた後に俺は連れてこられたのが闘技場。


だが、普通の闘技場ではなかった。


ロボットが戦っている。火の玉や氷の槍を飛ばしたり、剣を打ち合ったりしている。


俺はこれからこのロボットに乗らされるのだそうだ。地下闘技場で。


地下闘技場については知っていた。一番近寄ってはいけない所だ。国が認めた命懸けのお遊び。


俺はそこへ連れられて18番の数字を与えられた。


それから訓練をつけられロボットの操縦がやっと出来るようになった頃。初戦が回ってきた。


相手は何度か戦って武器や装甲が豪華。重厚な装甲。重心が先端に偏っている長剣ロングソード


対してこっちはナイフ一本。装甲も機動力すらも向こうが上らしい。


熱狂的な闘技場の空気に当てられ俺は目眩がしてきた。また死ぬのかと。


当たったらひとたまりもない。確実に横が潰れて俺は死ぬ。


コックピットの横が突然何かに押されて俺に迫り、圧死する。


嫌だ。それだけは嫌だ。


「………」


走馬灯がまた見えただが今回はなにかが違う。


何かを見せようとするかのような記憶の断片。アニメ?


テレビの中をなにかが……


『はじめ!!』


司会が開始を宣言した。だが、俺の耳には届かなかった。


雑音が去り、テレビから流れてくる音楽……いや音だ。


映像が見えない。光の加減が邪魔をしているのだ。


突っ込んでくる。長剣を上に掲げ上段からの振り下ろし。


だが目を瞑る。もっとよく思い出す為にもっと……もっと近づけ。


そのテレビにはアニメが流れていた。そう、近接戦の所だ。


長剣は振りが遅い。俺はナイフ。よく見るんだ。長剣の弱点を……


剣が伸びる。だが、アニメーションの白い筋は腕には無い。


間合い……懐?


そうか、長剣は距離が無ければいけない。懐だと振っても当たりづらい。


遠心力に頼った一撃には時間が掛かる。


前へ、踏み込む。


もっと前へ、アクセルを!!



ゴオオォン!!!!



装甲がぶつかる音がした。衝撃もコックピットへ。


鼻血が出てる……だが、今は腕を前に刺す!!


抱き着いて、刺す。刺して刺して刺して刺しまくる……


刺せ、刺して刺して刺して刺せ………刺せ……刺すんだ……


刺して刺して刺して殺して刺して刺して殺して殺して刺して殺して殺せ。


刺せ殺せ


「ッ!?」


無我夢中にナイフを振り続けた。そのナイフは折れてロボットの拳が変形してしまっている。


「勝ったのか……」


眼の前を見る。そして、吐いた。


敵のコックピットはズタズタに切り開かれ、中がよく見えた。


よく……見えたんだ。


大腸、小腸が分裂して吊り下げられ、頭は半分にまで潰れてしまっている。腕はありえない方向へ折れ曲がり骨が飛び出てしまっている。


赤い……そして、コックピットの上になにかが垂れ下がっていた。


御守りだ………書いているのは安産祈願のような文字。


見てはいけない。見ては……


だが、この時の自分はなにかがおかしかった。


観客のほうを見た。


歓声を上げる客達に紛れて一人が座っていた。


長く美しい金色の髪のカーテンの中。その手には赤ん坊が居た。


殺したのだ………初めて殺した。


意思を持って殺したのだ。彼女の夫を。


後を追い死んでいった父親を思い出した。


『■■■……人を幸せにさせろ。自分もだ』


出てくるな……なんで………なんで言っちゃうんだ。


「…………殺した……」


多分、彼女も後を追い死ぬかもしれない。


今日、自分は三人殺したのだ。この手で……殺した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る