第38話 くちゅくちゅ


 俺は巨人化して町の外に出ている。


 まな板ならぬ手のひらの上には、捕らえた男を乗せていた。ちなみに捕縛などはしていない、逃げられるものなら逃げてみろ。死ぬぞ。


 なんかわからないのだけど、エリサの考える拷問には巨人化した俺が必要らしい。


 ちなみにエリサとラティシアちゃんは、いつものように俺の右肩に乗っている。


『スズキ! 池に向かって!』


 エリサの指示に従って、町の近くにある池まで歩く。


 池の周囲には畑があり、さらに水路が畑を囲うように存在している。


 ようはいつもの池であるのだが、実は水が透明ですごく綺麗だったりする。普通に飲めるので畑の耕し中に飲んだこともあったり。


 あ、もちろん水を飲む時は小型化してだ。巨人サイズで池の水を飲むと、水量が減ってしまうからな。


「おい雑魚人間、潰されたくなければ喋れ」

「は、ははっ! 俺を潰したら情報は得られないぞっ!!!」


 試しに先ほどの男を睨んでみるが、やはり殺されないと思っているようで効果は薄い。


「おいエリサ。いったいどうするつもりだよ?」


 ぶっちゃけてしまうが、俺は拷問なんて出来る気がしない。


 なのに手伝ってくれとか言われても困るのだ。巨人になったのも、この姿で脅せば男が漏らさないかなという希望的観測が大きい。


 というか巨人状態で小人なんぞどう拷問しろというのか。軽くつまんだら潰してしまいそうなのに。


『スズキ、そこの池の水があるわよね』

「そうだな」

『魔法でコップを作って、池の水を汲んでよ。それでそこに男をいれるの』


 なるほど、水責めということか。


 それなら俺でもできそうなので、さっそく魔法でコップを作る。そして池の水をくんだ後、手のひらをコップの水面に近づけてひっくり返す。


 すると男は水に落ちてバシャバシャともがいている。どうやら泳げるようでしばらくすると楽そうに水に浮き始めた。


「はっ! いい水だねぇ! こんなもので情報なんぞ漏らすわけがないだろう! だから話して欲しけりゃ黙って抱かせ……」

『なに言ってるのよ、まだ拷問なんてやってないわよ。見たことない拷問をしてやるって言ったわよね』


 どうやらこれは拷問の類ではないらしい。


 確かに水に落としただけではあるのだが、しかしここからどうやって見たことない拷問をするつもりなのだろうか。


『スズキ! コップに棒を突き刺してかき回し、水流を作ってやりなさい! 溺れさせるの!』


 ……なるほど、渦潮地獄と。


 確かにコップに入っている者からすればわりと拷問かもしれない。


 俺は左手にコップを持ったまま、右手でプラスチックの棒を出現させる。そしてコップの水をかき回し始める。


「や、やめろぉ!? お、おぼっ!? 溺れ……っ!?」


 まるで粉末スープをかき回してる感覚だ。


 だが当然ながら小人は水溶性ではないので、いくら混ぜたところで最終的に沈むだけ。


 とは言えども男はかなり必死にあがいて、渦潮の中心でもがいている。俺が軽くかき混ぜているだけなのもあるけど。


『ほら言うことはないのかしら! 知ってること全部話しなさい!』

「こ、断る! むしろ今ので決めたぜ! てめぇら全員、俺のテクでヒィヒィ言わせてやるよ!」

『この……っ! 最低野郎! もう怒ったわ! 流石にやめてやろうかと思ったけど、こうなれば最悪の拷問をしてやるわ!』


 まさに売り言葉に買い言葉。男の挑発にエリサはぶちギレてしまった。


 しかしこの渦潮拷問も結構キツイと思うのだが、これよりも最悪とはいったいなにを……。


『スズキ! コップの中の水を全て口に含みなさい!』

「……ん?」


 俺はエリサの言葉が理解できなかった。


 いやだっておかしいだろ。コップには男が入っているわけで、水を全部口にいれたら……。


『聞こえてたでしょ! あの男ごと! コップの水を口にいれるの! 飲んだらダメよ!』

「正気か!?」

『正気よ! この男はもう、口の中でくちゅくちゅしてやるしかないわ! 噛んだり飲み込んだらダメよ!』


 俺は背筋がゾワッとなった。


 いやいやいや! どれだけ恐ろしいこと考えるんだよ!?


 巨大生物の口に飲み込まれて、水ごと口の中でくちゅくちゅされるだと!?


 映画でワニとかサメに口の中が見えるだけでも恐ろしいのに、それを飲み込まれてしかも口中でゆすがれるだと!?


 まさに拷問だ、絶対に考えるだけで嫌だ! そして俺も小人を口でゆすぐなど嫌だ!!!!


「ふ、ふ、ふ、ふざけるんじゃねぇ!? 俺は人間だぞ!? はっ!? そうか俺を脅してるだけだろ! そんなのやって間違えて飲み込んだら……!」

『黙りなさいこの外道! この拷問ならたぶん死なないし問題ないでしょ! もう飲み込んだら事故でいいわよ! ほらスズキやりなさい!』

「エリサちょっと勘弁してくれ!? 俺だってそんなの嫌なんだけど!?」

『我慢しなさい! 情報を得るためでしょ!』


 ダメだ、エリサは怒りで我を忘れている!


「や、やめてくれ!? 頼む! なんでも話すから!」


 男もエリサの本気を感じ取ったのか、それとも俺に飲み込まれる恐怖かで途端に態度を翻した。


 うん、わかるよ。巨大生物に飲み込まれるとか、拷問なんかよりもはるかに怖いよな。


 そうか。エリサはわざとブチギレたフリをして、このくちゅくちゅ拷問を本当にやるという脅しにしたのか。


 なるほどこれはうまいと言わざるを。


『はぁ? 今更なに言ってるのよ! まずは一度、口に含まれてからじゃないと信じられないわよ! さあスズキやるのよ!』


 あ、ダメだこれガチだ。


「ま、待ってくれ!? なんでも言うからそれだけは許してくれぇ!?」

「そうだぞ!? 男もこう言ってるじゃないか!?」


 何故か俺と男の意見が一致して、エリサを説得するのだった。


 最終的にコップ渦潮拷問を五分やって、まともな情報がなければ本当にやるということになった。


 男はすぐに漏らした。

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