ありふれた授業

 神学校の授業はつまらないものが多い。

 というよりも全部つまらないと言っても過言ではないだろう。


「良いですか?皆さん……神を信ずれば多くのことをできるようになるのです」


 しかし、時折ゲストとして訪れる信仰心を拗らせた教信者たちが教壇に立つときばかりはその限りではない。


「良いですか?皆さん、信仰があれば世界を変えられるのです。神の奇跡すらも、身近に感じられるのです」


 狂信の果てに、己が全てを捧げた末にどこか別の境地へと辿り着いた狂信者たちが見せるものは非常に興味深いものばかりなのである。


「ぬん!!!はっ……はァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 気合いとともに教卓の前に置かれているりんごへと手をかざす教信者は気合を入れてそのままリンゴを変形させていく。


『ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 そして、りんごの皮を突き破ってこぽこぽと体を沸騰させる紫の熱い液体でその身を作る小さな小人が、筋肉粒々のマッチョマンな小人が大きな産声を上げる……いや、なんだあれ。本当に何だあれ。

 なんでリンゴの中から生まれてくる小人が筋肉マッチョマンでポージングを取っているんだ?本当に意味が分からない。


「ど、どういうことでしょうか……?固有魔術?いえ、一切魔術の発動は感じられなかったですし……ほ、本当になんでしょうか?あれは」


「はわわ」


 しかも、そんな謎の現象でありながらこれは決して魔術なんかではないのだ。

 まさに奇跡。執念の果てに辿りついてしまった何か。決して人には理解出来ぬ料理気によって為される奇跡とは言い難い、悍ましい何かが目の前で引き起こされていた。


「……いいねぇ」


 教室中がいつものような教信者の凶行に見慣れていながら、それでも本能的に恐れおののき、困惑の声を上げる中で。

 僕は口を緩ませて小さく呟く。

 実に素晴らしい……このような授業、他になく、まさに誰であっても受けて損のない授業である。


「これこそが神の奇跡です。さて、それでは皆さんにも林檎を一つずつ配っていくので、それを各々好きなように弄ってください。自由にです」


 だがしかし、狂信者ゆえに生徒たちにやらせる授業の内容がぶっ飛んでいるのは玉に瑕であった。

 火を操る魔術しか使えないものたちであれば焼きリンゴしかもう作れないだろう。

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