第13話 お母様の魔力講座

 すぅ~はぁ~、と扉の前で深呼吸をします。


 一応、許してもらえましたけど、最近怒られたばかりですからやっぱり緊張しますわね。


 それでも水洗トイレのためと自分に言い聞かせ、私は意を決して扉をノックした。


「どうぞ」


「し、失礼します!」


 中から返事が聞こえて入ります。


「あら、誰かと思ったらアリシア?」


「お母様、お邪魔しますわ」


 そう、ここはお城にあるお母様の執務室。


 どうして魔力について知るためにお母様の元に訪れたのか。それはお母様が私やお兄さまたちの魔法の先生になる予定だったからですわ。


 まぁ、お母様の期待に反して三兄妹とも魔法系スキルは授かれませんでしたが。


 お母様はこう見えて風魔法最高位スキル『暴風魔法』の使い手で、このサンライト王国でトップクラスの魔法使いなんですわ。


 そしてお父様に嫁ぐ前、お母様の出身は隣国である魔導王朝リローデッド。


 我が国が生産系スキルに特化してるように、リローデッドはこの大陸で最も魔法系スキルに精通しており、新魔法の開発といった魔法研究が盛んな国。


 そんな国ならば魔力についても知っていることが多いだろうと踏んで、リローデッドの出身であるお母様を尋ねに来たということです。


「アリシアがここに来るなんて珍しいわね。どうかしたの?」


「はい! 少し錬金術で行き詰ってしまって、お母様に聞きたいことができたのですわ——ひぃっ」


 スッと視線が鋭くなるお母様。


 あ、あの目は錬金術にかまけてお稽古を疎かにしていないか疑ってる目ですわ‥‥‥っ!


「だ、大丈夫ですわお母様! ちゃんと今日のお稽古は済ませましたわ! そ、それに今作ってる魔道具は画期的ですの! 完成したらきっとお母様も欲しがりますわ!」


 そう言って必死に弁解していると、お母様は「ふぅ」と息を吐いた。


「あなたがちゃんとやってることは分かってるわ。それにシャワーという魔道具でしたっけ? あれも便利なことも認めてます。レティシアからもアリシアに才能があるって聞いていますし」


「お母様‥‥‥」


「本当は自分の子供に魔法を教えるのを楽しみにしていたけど、今のあなたのキラキラした瞳を見れば、これでよかったとも思ってるのよ」


 そう言って、近づいてきたお母様が私の頭を撫でてくれます。お父様やお兄さまとは違った優しく包み込むような手つき。


「それで私に何が聞きたいのかしら?」


「はい! 魔力について詳しく教えてください!」


 私がそう言うと、魔法関連のことだからか、心なしか嬉しそうにお母様が頷きました。


「いいわ。それじゃあまずは、復習がてら今まで教えてきた魔力について説明して頂戴。でも、その前に座りましょうか」


 私たちは移動して、執務室に備え付けてある応接用のソファーに向かい合って座り合います。


 お母様がメイドに飲み物を頼み、それに一口付けてから、私は教えられた魔力について説明していく。


 といっても、私が魔力について知っていることはごく一般的なものですわ。


「魔力はこの世界に存在するものであれば誰でも持っている力です。それは人だけでなく、草花や動物、土地や空気中にも宿っています。魔力を鍛える方法はとにかく使い、循環させること。スキルを使用するのに魔力操作は必須技能であること。寝れば魔力は回復すること。こんなところですわ」


 私が思い出せる限りの魔力の知識を諳んじると、お母様は満足そうにうなずきました。


 ほっ‥‥‥どうやら覚えていたことは間違ってないみたいですわね。


「そうね、アリシアに教えたのはそこまで。大抵の人はそれだけ認識していれば、普通にスキルを使えて日常生活を送れるわね。それじゃあもう一歩、踏み込みましょう」


「はい! お願いしますわ!」


「これはアリシアが魔法系スキルを授かれば教えるつもりでしたが‥‥‥魔法使いは魔力を二種類に分けて使います。マナとオドです」


 お、おぉ!? 二種類に分けるですと!? その話を詳しくですわ!


「体内魔力のことをマナ、対外魔力のことをオドと呼び、魔法使いが魔法を使う時はマナ使いオドに働きかけることで、普通に魔法を使うよりも魔力消費を抑え、より強力な魔法を撃てるようになるのです」


「ふむふむ。お母様、そのマナとオドは体内と対外にある以外に明確な違いはないのですか?」


 その違いがあれば、マナだけを感知するセンサーができる気が‥‥‥。


「‥‥‥? どうしてアリシアがそんなことを気にするかは分かりませんが、今のところは発見されてないわね。ただ、私はマナには波動のようなものがあると思ってるわ」


「波動‥‥‥ですの?」


「魔法使いは魔法使いを知る、という言葉を聞いたことないかしら?」


「ありますわ。確か、魔法使い同士が対面すると、相手が魔法系スキルを持っているのがわかるってことですわよね?」


「そう。厳密にいうと、そこまではっきり分かるわけじゃなくて、そんな気がする程度だけれど」


 お母様の言ってることはなんとなくわかりますわ。


 例えば前世で父と陶芸の美術展に行った時とかに、父が「こいつ‥‥‥できるッ!?」みたいな顔してたのと同じようなものでしょう。


「でも、これが高位の魔法使いになるとその相手の魔力を感知するだけでそれが誰なのか識別できるようになるのよ。実際私もアレクやカイル、アリシアなら直接見なくても魔力を感じれば誰か分かるわ」


 なるほど‥‥‥つまり、そのお母様の言うところの波動を感知できるようになればあるいわ‥‥‥っ!


 目の前の道が開けた気分ですわ! こうしてはおれません、さっそく色々と実験しなくては!


「お母様、ありがとうございますわ! ちょっと試したいことができたので行ってきま——」


 ——ガシッ!


 席を立ち上がろうとしたその瞬間、私の両肩を強く抑えてくるお母様。


「待ちなさいアリシア。聞きたいことだけ聞いて、それはないでしょう?」


 ひ、ひぃ~っ! お母様のお顔がニッコリなのに、怖いですわっ!?


「そう言えば、錬金術スキルは錬金魔法が使えたわね? よろしい、これから訓練することにしましょうか」


「え、え~っと、お母様? 訓練なんてそんな、いらないのでは? 私、魔法使いじゃなくて錬金術師ですわ?」


「魔法使いではなくても魔法は魔法です。ほら、魔法士訓練場に行くわよ」


「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ~~~~っ!!」


 錬金術! 私の錬金術の時間がががががが!


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