第2話 姫女子…………だと?

「ねぇねぇ、つばめちゃ~ん?」

「ん? 何~?」


保健室を出たつばめは付き合えた事への喜びと、何度も倒れた事によるダメージとが混ざり合い、いまいちはっきりしない頭でぼんやりと空を眺めていた。

ガラスの様に透き通った空、浮かぶ雲。

なんだか美味しそうだなーっと訳の分からない事を考えていたら……


「この後一緒に買い物行かない?」


ゆりから爆弾が投下された。


(キャーーーーーー! 買い物デートだー! フラグ立ったよー! 立っちゃったよー!)

「う、うん……良いけど……」

「ほんと? やったー! つばめちゃんとデートだー!」

(グハッ……可愛いやつめ…………)


透き通った空の下、2人は笑顔で歩き出したのだった。


・ ・ ・


何気ない話をしていると、あっという間に駅の近くにあるショッピングモールに着いた。


「何か気になるお店あるー?」


ゆりが聞く。

もちろんある。めちゃくちゃ行きたい店はあるんだ……

それも目の前にある……


(今日って君に恋をしたいの発売日じゃん!)


そう。本屋さんだ。

君に恋をしたい(通称きみこい)は、つばめが今どハマりしている百合漫画である。

もちろん買いたい、だがゆりの前で買って良いのだろうか……そんな事を考えているとゆりがボソッとつぶやいた。


「あっ……今日きみこいの発売日じゃん……」

「!」

「今なんて!?」

「あっ、いや……なんも無いよ」

「きみこいって言ったよね……?」

「う、うん……」

「読んでるの?」

「う、うん……」


質問の嵐である。

つばめよ、ゆりが可哀想だから止めたげて……


「私も読んでるんだけど……」

「ほんと!?」

「うん、良かったら本屋さん行かない……?」

「うん! 行こー!」

(やったー! 今度ゆりときみこいの話いっぱいしよ~)


テンションが爆上がりな姫女子達だった。



本屋さんでのいちゃラブデートを終え、2人はフードコートで本を読んでいた。


「キャーーーー! 手……繋いだ……」


きみこいを読みながらゆりがつぶやいた。

今だ! チャンスだぞ、つばめよ! 覚悟を決めろ!

今言わなきゃ後悔するぞ!


「あの……ゆり? あの店行かない?」

「文房具のお店? 分かった、行こ~」

「あとさ……手……繋ぎたい…………」

(恥ずかしー! 顔見れないー!)


つばめが顔を真っ赤に染めてそっぽを向く、そしてゆっくり手のひらを前に突き出す。

手先にゆりの手が優しく触れる感覚。温かくて心地いい。

そしてくすぐったい。

そんな事を考えていると、ゆりの手のひらはすでにつばめの手のひらを包み込んでいた。


「さぁ、行こっか! つばめちゃん!」

(ゆり……可愛すぎる……)


明るい声が館内に響いたとさ。

いやぁ甘々ですなぁ、付き合っちゃ……ってるのか、結婚だ!結婚しちゃえ!

おぉっと失礼、こちらは作者トークです。

もう慣れたかな?

おっと、あれは…………困ってそうだな……


「あ、あの……つばめちゃん? 一瞬手離してくれない……? これじゃシャーペン持てないよ……」

「やだ! 絶対離さないもん!」

「お願い! ほんと一緒で良いから!」

「やだ! やだ、やだ、やだ、やだー!」


前言撤回。甘い空気はどこへやら、冷たい視線が降り注がれていた。


「ぐすん…………ゆりが冷たい…………」

「ご、ごめんね………………?」

「もう手離さないって約束してくれる……?」

「う、うん……ずっと一緒、手も離さないよ、つばめちゃん」

「分かった……許す……約束だからね……」

「う……うん……?」

(あれ? 私謝られるようなことされたっけ?

まぁ、いっか~)


ゆりよ……とんだ災難だったね……

大丈夫……そなたは間違ってない……


「ん? おー、つばめじゃん!」


シュパッッッ


即座に手を離すつばめにゆりは大混乱!

さっきの約束はなんだったんだ。


「お兄っ…………あんたかよ。」

「今絶対お兄ちゃんって言おうとしたよな?」

「しっ……してないし~?」

(絶対にゆりの前でお兄ちゃんなんて言えないしー! バレてないよね?)


即座に後ろを振り返り確認する。


(ニヤニヤしてるー! 絶対バレてるー! 終わったー!)

「なぁつばめ、後ろにいるのってさっき保健室にいた人だよな?」

「え? あぁ、そうだけど」

「東雲ゆりです、よろしくお願いします」

「ゆり……か、君可愛いね! 付き合って!」


優しく笑いかけウインクする。正直結構イケメンである。


「ねぇ? 風翔? 殴るよ?」

「悪かったって、冗談だよ冗談」

「はぁ……そういうのやめなさいよ」

「やーだねー」

「はぁーーーー?」


結局この後は風翔が2人にクレープを奢り和解となった。


「そうだ、ゆりって言ったっけ? 一言言っとくけどつばめは渡さないから」

「えっ……?」

「んー? 風翔なんか言ったー?」

「いやー、なんも~先帰っとくね?」

「うんー」


しばらくして風翔の姿が見えなくなった。


「ゆり、なんか言われたよね? なんて言われたの?」

「え? なんかつばめは渡さないって……」

(くっそー! あのシスコン何いらないこと言ってんのよ!)

「あぁ、ごめんね~、気にしないでいいよ」

「う、うん……」


2人の間を冷たい風が吹き抜けた。

春なのに……


「つばめちゃん? そろそろ帰ろっか?」

「えー! やだやだやだー! 帰りたくないー!」

「つばめちゃんクールなのに、こどもみたいで可愛い……」

「……」

「……」

「……」

「つばめちゃん……また倒れちゃった……」


ゆりはそのまま自分の家につばめを連れて帰るのだった。

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