第27話「人間と迷宮」

「魔王様、アルマからの報告です。人間がダンジョン攻略に行くので準備をして欲しいとのことです」


「ああ、準備なら出来てるよ」


 アルマはアレでも優秀なのは一目見て分かったからな。人間への間諜向きなのがよく分かる。人間を上手く操るのに長けているし、魔族の中でも割と人間くさいからな。そういうやつにはそう言う仕事がぴったりだ。


 ダンジョンには迷宮を作り、その他諸々のブレインとカレンのアイデアを採用した部屋を作っている。やはり自分一人では発想に限界があるので原住民のアイデアというのは参考になる。


 配信用の画面を投影していつでも配信が出来るように準備して、魔族の端末に配信予定の通知を送る。この機能は比較的最近配信後に流して身分証をアップデートしたのだが、任意で追加する機能にもかかわらず結構な数の魔族がそれを受け入れた。おかげでスポンサーにこれだけ期待されている事業であると宣伝することが出来た。おかげでなかなか良質で高額の広告主が手に入った。


「カレンは?」


「呼び出しました、すぐに来るでしょう」


「よろしい、それでは配信準備をしていくぞ。カレンができない範囲を優先して準備しておけ」


「かしこまりました」


 そうブレインに指令を出して準備をさせる。俺の方でもダンジョンの初期配置を考える。前回のことからもう少し強いパーティを送ってきても構わないと言ったので、割ときつめのトラップを多めに用意した。


 入り口とボス部屋以外はランダムに繋がるようにしているが、あくまで用意したものの中からランダムで繋がるだけなので、作ってもいない部屋を生成することは出来ない。そこで難易度調整は俺の仕事だ。


 さて、アルマから送られてきたパーティ情報を見ておくか。


「ふむ……今回は女四人組か」


「そうですね、なんでも元姫騎士まで入っていると噂のパーティなので油断は出来ませんね」


 姫騎士ねえ……騎士の中でもエリートだが、象徴的なもので、騎士たちの士気を上げるための役割も大きい。となると死なせるわけにもいかないな、ダンジョンが危険視されては元も子もない。あくまで初心者に優しいダンジョンを標榜している以上姫騎士が死ぬような難易度だと噂になっては困る。いい感じに敗退してくれるのが理想だ。


 即死トラップなどは外しておこう。一応用意しておいたものだが、今回の連中に挑ませるべきではない。


 迷宮エリアもしっかりと用意してあるのだが、ダンジョンから出られる緊急脱出装置も設置しておくか。


「よし、準備はいいぞ、ブレインの方はどうだ?」


「こちらは配信準備出来ました」


「遅れました! 実況担当カレン、ここに参上!」


「別にまだ配信してないんだからそのノリでなくてもいいが……」


 とにかくカレンが勢いよく扉を開けて入ってきた。まだ配信を始めていないから良かったが、勢いのつけすぎで配信をしていたらリスナーの耳がおかしくなるような音量を響かせていることに気付いて欲しい。それとも自分がいないと配信が始まらないと確信しているのだろうか? だとしたらなかなかの自信だと思う。実際その通りではあるが。


「ブレイン、パーティの位置は?」


「かなり近づいてきましたね。監視装置から検知出来る程度には近づいてきているようです」


 あの監視装置、結構遠距離まで検知するのでまだまだ遠いような気はするな。速さに自信のある魔族ならすぐに来ることができる範囲で作られているので人間に使うにはかなりのオーバースペックだ。


「わかった、では人間一行の到着まで広告を流すぞ」


 場を持たせるための広告というのも結構ありがたい。突然配信が始まるとダンジョンに入ってから配信に気がつく魔族も出てくるので、事前に流しておけばそろそろ人間が来ると気付いてくれる。しかも配信を見るために待ってくれるので広告もしっかりと見てくれる。つまりスポンサーへのウケも良いというわけだ。


 何がいいかと言えば、まだダンジョンの内容が出ていないのでこの広告枠は何を流しても構わない。あまり過激なものは良くないが、少なくともダンジョン内でグロテスクな展開をやった後で外食産業の広告を流すようなことは出来ないといったことはない。


「魔王様、今回流してもらえたら高額を支払うと言ってきた広告主がいますがご判断を」


 ブレインがそう言って俺の前に広告を投影した。内容は古着の販売業者のものだったのだが……


「なあ……この企業は下着まで古着にして販売するのか?」


 当然女魔族の下着のことだ。


 ブレインは困った顔をして言う。


「むしろそちらが主な業務ですな……その……あくまで古着の一種として下着を売っているという建前を掲げている企業です」


「マジで腐ってる企業だな……」


 やましい広告は流さないと決めているのでこの広告は論外だ。幸い広告主も『流してくれたら』報酬を支払うとのことなので、まだ金をもらっていない。流さなければ違約金を取られるというリスクも無い。おそらくコイツらはそもそも流してくれるなんてあまり想像もしていないのだろう。ダメ元でねじ込んでくるのはやめて欲しいものだがな。


「何しろ単価が高かったものですから……無理だとは思ったのですが魔王様の判断を仰ごうと思いまして」


「ブレイン、お前にはそれなりの権限があるんだから明らかにヤバい広告はお前の意志で弾いて構わん。遠慮する事は無い」


「ははっ! 分かりました、以後厳選することにしましょう」


 俺は『よろしい』とだけ言って広告の画面を横にずらし、ダンジョン入り口からの映像を見る。地平線の方に人影があるのでそろそろ配信を始めようか。


 俺は手元の水晶を操作して広告が終わったタイミングでダンジョン入り口から見える景色を映した。これでリスナーたちの期待を煽ろうじゃないか。


 そこでふと、この前のカレンの出したトラップ案である『服を溶かすスライム』は需要がこういう時には高そうだなと思った。しかしそんなものを誰もが持っている身分証に流すわけにもいかないのでぐっと我慢しよう。それで得られる広告費は結構なものだろうが、それをやると以降に健全な会社が広告を出したがらないだろう。


『さあ今回も始まりました! 人間達のダンジョンチャレンジです! 今回の参加者にはなんと! 元姫騎士がいます! これは嫌が応にも期待が高まりますねえ!』


 俺は特権を使って音声を切ってカレンに注意する。


「熱心なのは構わないが、あまり下品にならないように気をつけろよ」


「はい……」


 しゅんとしているが、カレンがこの程度でへこたれないやつであることは知っている。一応理解は得られたようなので音声を復帰させた。


『今回のパーティはどこまでたどりつけるのでしょうか? 実力派で美しいパーティの活躍やいかに!?』


 多少おとなしめになったのでいいだろう。同接数を見て、そこそこの数が見ていることを確認する。


『人間達がようやくダンジョンの前に立ちました! さあ魔族を楽しませてもらいましょう! 人間の意地というヤツに期待をしながら見てください! 必死にあがく様を我々は楽しみにしているのです!』


 こうしてダンジョンの入り口に立ったパーティを映して、ついに配信が本格的に始まった。

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