第8話 鶺鴒(セキレイ)

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「建物にツタが絡まっているぞ。もう何年も放置されてるな」

「そうだな。10年以上は経っているだろう」

の暴走でしょうか。でも、これは…」

「チチチチ」


 廃墟になった町で話し声が聞こえる。

 声の主は、一人の少女と二人の生首とセキレイである。


「うむ。というよりは、魔族の仕業に近いな。一部だけでなく全体的に破壊されている」

 魔王の生首ヴァールは、周囲を観察している。

「そうだな。人間なら破壊しても金目のものは持っていくからな」

 勇者の生首アレックスは誇りを被った宝石類を眺める。

「もしかして例の魔族の仕業でしょうか」

 少女クレアは、顔が険しくなる。

「チチチ」

 セキレイは相槌を打つ。



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 この生首と少女の一行は、とある魔族を追っていた。

 前回立ち寄った町で、惨劇を引き起こした魔族が西にいったという情報を掴んだのだ。

 確定ではないが、自分たちの家族の仇でもある。

 三日ほど馬車を走らせたところで、この街を見つけたのだった。


「この様子を見ると、空振りかもしれぬ」

「チチ」

「確かに、なんにもないから居てもしょうがないしな」

「チチチチチチチ」

「なにか手掛かりがあればいいのですが…」

「チチチ」


「なあ」

 アレックスが他の二人に話しかける。

「なんでこの鳥ついてくるの?」

「チチ?」

「ああ、これはセキレイという鳥です。人懐っこいんですよ」

「ふむ。我らが怖くないのであろうか?」

「こんなんでよく生き残れたなコイツ」

「チチチチチチチチ」

「アレックス、なにか文句を言われておるぞ。言い返してやるといい」

「いや、鳥の言葉分かんねぇし…」

「おう、すまん。人間は久しぶりだから、鳥の言葉を話しちまった」

「「「え!?」」」

 小さな鳥から流暢りゅうちょうな人の言葉が飛び出し、一行は思わず固まるのだった。



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「人間どもよく来たな。歓迎するぜ」

「えっと、鳥、なんですよね」

「ああ、間違いなくあんたの言ったセキレイっていうやつだ。鳥も長生きすれば人の言葉を話せるようになるのさ」

「嘘つけ、鳥が喋れるわけないだろ」

「そんな鳥聞いたことないわ。なにか魔物ではないのか」

 アレックスとヴァ―ルの抗議に、セキレイは少し不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。


「オレから言わせてもらえば、アンタらも十分おかしい。リビングヘッドならともかく、喋る生首なんて聞いたことねぇ」

「おおう。なんか、ここにきてまともな突っ込みをされた気がする」

「緊急事態の時にきて、すぐに問題を解決したから有耶無耶うやむやになったからな。正面から言われるのは初めてだ」

 アレックスとヴァ―ルは、初めての指摘に動揺し始める。


「はん。アンタら、おかしいっていう自覚はあるんだな。じゃあ。それ以上は言わんよ。野暮だからな」

「なんだこいつ。そこら辺の人間より人間臭いぞ」

 アレックスが一行の意見を代表して言う。


「ところでだ。飯持ってないか。ここのところまともに食べてないんだ」

「セキレイさんは何を食べられるのですか?」

「昆虫とか肉とかかな。パンのかけらでもいいぞ」

「まあ、パンくらいなら…」

 クレアは持っていたカバンをの中を探り始める。


「クレアよ。なぜ食べ物を分けようとする」

 パンをあげようとしたクレアを、ヴァ―ルが制止する。

「ヴァ―ル様。困ったときはお互い様ですよ」

「いや、ヴァ―ルの言う通りだ。鳥に何ができる」

「確かに。ここは弱肉強食の世界。力なきものは何も手に入らんということか」

「なんか鳥の理解が速くて怖いんだけど」

「う、うむ。我もだ」

 アレックスとヴァ―ルはセキレイから距離を取り始める。


「ならば、お前らが欲しい情報をくれてやる。お前らにとって情報は力でもあるのだろう?」

 セキレイの言葉に一同が驚く。

「何か知っているんですか?」

「さっき会話に出てきた魔族かどうかは知らないが、ここ近くに陰気な魔族がすんでいる。その場所を教えよう」

「本当か?」

 アレックスはいぶかしむ。

「ああ。あいつが夜な夜な暴れるせいで、夜眠れないんだよ」

「例の魔族かもしれません」

「しかし、やつは先日苦しみから解放されたはずだ」

 ヴァ―ルが否定する。

「アレックスがを食べて、ヤツはの影響下から解放されたはずだ」


 セキレイが首をかしげながら、話を続ける

「何かあったのか。確かにちょっと前に静かになったな。最近また暴れだしたけど」

「アレックス様!ヴァ―ル様!」

「ふむ。ここまで言われると、例の魔族の可能性が高い」

「では!」

「ああ、駄目で元々、行ってみようか」


「話はまとまったか?」

 一行の様子を見ていたセキレイが問いかける。

「ああ、案内してくれ」

「いいだろう。だが忘れていないよな」

「忘れる?何か忘れていましたか?」

「忘れるな。パンだ。パンをよこせ」



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「ここだ」

 一行はセキレイに、とある大きな建物に案内される。

「この建物、他の建物より豪華だな。この中にいる魔族は、見栄っ張りと見た」

「会ってないうちから判断するものではありませんよ。まあ悪趣味だとは思いますが…」

「クレア。お前も結構な毒舌よな」


 その様子を見ていたセキレイが、一行から離れる。

「じゃあ、オレはこれで。飯サンキューな。パンうまかったぜ」

 そういって遠くへ飛び去って行った。


「さて、俺たちも行くか」

「はい。準備はいいですか?扉を開けますよ」

「ああ、警戒はこちらに任せておけ。何が来ても守ってやる」


 そうして少女と生首の一行は、建物の中に入っていくのだった。

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