第9話 無事に解決

 それだけ言うと王女は手をパン、と叩いた。

 すると門の向こうから黒服の男達が現れて、エレテレテを囲んでしまった。


 その内の一人が口を開く。


「お嬢様、御父上が非常にお怒りとなっております。どうかお戻り下さい」


「いきなり出てきて何よ貴方達!? 何で此処が分かっ――ちょっと離しなさい!! 私はギフィに用があるのよ!!」


「御父上からは力づくでもとご命令を受けていますので……。では姫殿下、私共はこれにて」


「うん、私の我がままで待ってもらってすまない。後は君達の好きにしてくれ」


「ちょ、ちょっと待って!? 姫殿下? 貴方達何言って……痛い!? 離しなさい! ギフィ、助けて!! ねぇギフィレットぉ!!?」


 喚き散らしながら、男達はエレテレテを連れ去ってしまった。


 俺は何が起こったのか全く分からずただ立ち尽くすのみ。


「家の前で騒がしくしてすまなかったねギフィレット君、君も大変だったろう?」


「い、いえそんな……。でもありがとうございます殿下。エレテレテを追い払って頂きまして……」


「礼を言われる程の事じゃ無いさ。今日立ち寄ったのは、あの婚約の顛末について話をしようと思ってね。……と言っても、エレテレテ嬢から大体は聞いたかな?」


「ええ、はい。王子は城から追放されたとか……。しかし、いくら貴族の婚約を無理矢理破棄させたといってうちはお金も無い男爵家です。それほどの重い罰が必要なのでしょうか?」


 疑問に思っていた事だ。これが侯爵家同士等の大貴族の婚約を壊したというなら理解出来るが家は歴史以外には何もなような貧乏小貴族だ。王家にそれほどのダメージが入るとは思えなかった。


 王女は俺の額に一指しを当てて来た。い、一体何だ?


「こらこら、自分を卑下するのは良くないと前にも言っただろう? 例え家格は低くても立派に貴き一族の末裔じゃないか」


「す、すいません。殿下から頂いたお言葉でしたのに、失礼な事を言ってしまって」


「本当に心労をかけたね。その事についてなんだが、実は色々と裏があるんだよ」


「えっ」


 それは一体どういう事なのだろうか? もしよければお聞かせください、と姿勢を正してお願いする。


 すると王女は説明を続けた。


「実はだね、父上……つまり我らが国王陛下は君とエレテレテ嬢が婚約していた事を知らなかったんだ。侯爵家の婚約となれば王家にも聞こえてくるものなのだが……どうもエレテレテ嬢が己の周りに口止めをしていたようだ、そうだね?」


「ええ、正式な結婚が決まるまでは内緒にするように言われていました。それもいつかの夜会でエレテレテが自分からバラしてしまいましたが……」


「その時点で国王の耳に入っていれば、単に弟が大目玉を食らうだけで済んだかもしれないのだが。生憎と、ここ暫くは国の仕事で兄上と共に城を離れていてね。私も別件で城を離れていたのもあって、随分と好き勝手されてしまったよ」


 そう話す王女の声色には疲労が滲んでいたようにも思える。いや、実際弟の不始末で大変だったのだろう。


「私が弟の婚約を知ったのは、国王や兄上よりも一足先に城に戻ってからだ。ただ、弟の動きに不審なものを感じてね、陰ながら独自に動いた結果、君が強引に婚約を破棄させられていた事を知ったのさ」


「それで、以前この家を訪ねて来たんですね。あの時は驚きました、まさか身内の事とは言え殿下が謝罪に訪れるなんて」


「でも……それで君と出会えた」


 俺の両手を包み込むように握りながらそんな風に言って下さる殿下。


 何だか照れるな。でもそれは俺も同じだ。勘違いしそうになるが、この方にときめいてしまった。

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