異世界に飛ばされたワイ氏、職業がヲタクなんだが・・・。でも意外と使えるんじゃね?

ヘキサン

第1話[ヲタク、異世界へ飛ぶ]

白いローブに身を包んだ、恐らく聖職者の類であろう人が声高々に言う。


「おぉ、勇者様方!どうか我らをお救いください!」


なんと王道、そして捻りのない展開だろうか?

冷たい石レンガの床に、いまだ淡く輝く幾何学模様の魔法陣。

そしてあたりを取り囲む黄色と青の装飾が施され、絵画が飾られた建物の壁。

もはや見慣れたクラスメイト達が呆然とする中、俺は一人考えた。


(今夜も、推しの配信があるのですが・・・)

──────────────────────


こうなった原因を時系列順に振り返るとしよう。


まず初めに、俺の名前は真自野まじの緒拓おたく

一般平均男子高校生だ。

外見は・・・まぁ、自覚を持てるくらいおっさんだ。

剃るのが面倒で放置された結果、みっともなく伸びたひげ。

パサパサで脂ぎった短めの髪の毛。

運動をあまりしないせいでぷっくりと膨れたお腹。

食生活の偏り故に、大きく荒れた肌。

モニターの見過ぎで、見方によっては濁っている瞳。

雰囲気からして近寄りたくないのが、この俺、緒拓おたくである。

そんな俺も、中学生の頃は誰もが二度見するような美少年だったんだゾ★

まぁ、過去の栄光に捕らわれる気はないが・・・。

そんな俺でも、取柄と呼べるものが一つある。

それがこの推しに対する猛烈な愛だ!

俺は根っからの、典型的なVTuberアイドルヲタクだ。

制服の下には推しのプリントアウトされたTシャツを着込み、カバンには最低三つのキーホルダーが付いている。

スマホの待ち受けは当然推しだし、スマホケースも推しが印刷された自作の物だ。

部屋を埋め作るレベルでグッズを収集し、バイトで貯めたお金やお小遣いもすべて貢ぎこんだ。

ライブに行った時のために、盛り上げるためのヲタ芸を学び、極めた。

そんな俺の夢は、推しを支えること・・・。

すなわち!推しのマネージャーになることだぁ!

まぁ、そのためにはかなりいろいろな資格を取る必要があるのだが・・・。

そのために!まずは高校を卒業する必要がある!

幸い俺の頭は悪いわけではないので、普通に生活しているだけで、”成績”は優等生で卒業できそうだった。

が・・・。

やはり、この醜い見た目は、周囲から嫌悪の対象になっているのだろう。


???「よぉ緒拓ぅ?今日も遅刻ギリギリだなぁ?」


今、俺に話しかけている人の名前は斎藤さいとう睦樹むつきさんという、体育会系の男子生徒で、同じクラスの人だ。


緒拓「おはよう睦樹くん」

睦樹「あぁ?”くん”だぁ?てめぇ誰の許可を得て”くん”付けで呼んでんだぁ?」

緒拓「そうだったね、ごめん、斎藤さん」

睦樹「そうそう、それでいいんだよ」


俺は、いじめられている。

しかし”俺には”何をされてもいい。

何といっても、俺を生かしているのは愛だ。

推しに関連する物に手を出されなければいい。

逆に言えば推しに手を出した場合は、結構ガチにキレるが・・・。


???「おはよう緒拓くん」

睦樹「あ、お、おはよう加藤さ―――」

???「また遅刻ギリギリ?緒拓くん」


いま、斎藤さんを無視して話しかけているのは加藤かとう凛子りこさん。

このクラスの窓女だ。

そして、小学校時代からの俺の幼馴染でもある。

彼女は慈悲にあふれた性格をしており、地域ボランティア活動に積極的に参加し、地元の人たちからの印象もいい。

さらにはスーパーで迷子になった子供を保護して、親御さんのもとに連れて行ったり・・・。

まさに聖女のような人物だ。

しかし、俺に話しかけている彼女をはた目から見れば、豚に真珠。

釣り合っていないのは明らかだ。

だからこそ、面白くないのだろう。

加藤さんが俺に話しかけるたびに、ただでさえ周囲から嫌われている俺はよりヘイトを買い、いじめはより深刻化する。

俺も好きでいじめられているわけではない。

耐えれはするが、可能であればない方がいい。


???「凛子、いい加減緒拓に構うのはやめたらどうだ?」

凛子「なんでそんなことを一輝君が指図するの?」


そんな加藤さんに声をかけてきたのはこのクラスの学級委員長にして、皆の人気者、中村なかむら一輝いつきくんだ。

イケメンで文武両道。

高身長で、コミュ力も高い彼は、まさに、俺とは正反対と言えるだろう。


一輝「本当・・・凛子は優しいよなぁ、それに比べて緒拓、いつまでも凛子に甘えてるんじゃないぞ、もっとまじめになったらどうだ?」

緒拓「あ、あはは、善処するよ」


なんだよ、化学と古文の成績は俺に負けてるくせに・・・。

まぁ、俺は優しいし謙虚だから、それを自慢するような事はしないが・・・。

とまぁ、これが俺の日常だ。

斎藤くんにいじめられ、加藤さんが助けてくれて、それに中村くんが注意して・・・。

もはや見慣れた光景だ。

しかし、その日はいつもとは全く違う光景が繰り広げられた。


睦樹「お、おい、なんだそれ!」


急に声を荒げた斎藤君につられて、皆が同じ方向・・・中村君の足元を見る。

中村君の足元には・・・白く発光する、幾何学模様の円盤・・・まさに、魔法陣と呼ばれるようなものが展開されていた。

その魔法陣は輝きを強めると同時に、大きくなり、やがて教室中を飲み込むほどのまばゆい光を放った。



その日、俺の通う学校の2年C組の生徒全員が、突然行方不明になるという事件が起きた。





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