第三章 迷宮

第17話 オフ会


""""""""""""""""" 第三章 迷宮 '''''''''''''''''''''''''''''''''''


第17話 オフ会


 泉谷コージは、あの『星夜の誓』で十人もの突然死が起きてからというもの、中学校での勉強にもスポーツにも全く集中できない。

 家でもゲームはやらなくなったし、TVを見ても上の空だ。何故ならコージは、被害者全員をリアルで知っているからだ。

 コージの一番の趣味は、オンラインゲームで知り合った人達との「オフ会」だ。


 しかしながら、マニアックな趣味を持っているからと言って、彼が特殊な人間性や、コンプレックスを有している訳では無い。

 ルックスだって悪くは無いのだ。背も平均よりは高い方だし、顔もハンサムとは言えないまでも、決して異性に対しアピールしない訳でも無い。視力も聴力も運動神経も並だし、無論、コミュ力が弱いわけでもない。


 実の所今では、「オフ会」はすっかり廃れたイベントになったが、二〇一〇年代初頭までは広く流行していたらしい。

 ディスプレーでお互いの顔を見ながら話せるし、パーソナルトミーの大画面なら十人位の小会議だってオンラインでできるのだから、遠い所に居る仲間達が、わざわざ一箇所に集まってオフ会などする必要などさらさら無いのだが、このイベント独自の魅力を知っている、根強い愛好者が一部に残っていた。

 コージはその一人に過ぎないのである。


 同じ空間に集まって、同じものを食べながら、似通った趣味について語り合ったり、そして、同年代の異性と直に見詰めあったり、触れ合ったりする可能性もあるオフ会は、コージにとっては何より捨てがたい魅力がある。


 しかしながら今のコージは、その趣味のせいで、自ら深く追い込まれ、ストレスも日増しに強くなり、うつ状態になっていた。


 コージの企画で六月下旬の三連休に、三日連続の『星夜の誓』オフ会が開催された……

 仙台、東京、大阪、福岡の全国四箇所で行った、個人の企画としては異例の大規模イベントだった。

 D512グループのメンバーは、チャットで知り得た情報では全国に散らばっている上、中学生が主体だったから、休みの日といえども、日帰り圏で行わなければオフ会に参加してくれる者など居ないだろう。

 そう考えて、三連休の初日に仙台で、翌日は東京と大阪でダブルヘッダー、三日目は地元の福岡でやった。

 四つともコージ自身で幹事をやったのだが、オフ会マニアと思われたくないので、各参加メンバーに対しては、他の地区で同趣旨のオフ会をすることは隠していた。


 コージは被害者と直接面識を持つ者として、何らかの嫌疑を掛けられるのではないかと、ただでさえ不安なのに、その秘密が一層嫌疑を深くすることになりはしないかと、怖くてたまらないのだ。


 コージは考える。あの四つのオフ会全てに参加していた者が、自分の外にも一人だけいたことを……

 それは、自分と同い年の少年、高田ケンタロウだ。


(アイツは今考えるとかなり怪しい。アイツが事件に絡んでるんじゃないか?)


 でもそのことを相談できる人は、コージの周りには誰一人として居ない。

 何しろチームの相棒吉田ジローに対しても、オフ会のことは言ってなかった。クラスメートから変な奴と見られたくないというのがその理由だった。


 最初の仙台でやったオフ会……

 参加者は自分の外に五チーム十名。その内の一人が高田ケンタロウだった。

 オフ会は星夜の誓のオフライン版の話で盛り上がった。今では神話となってしまった、二〇一〇年代初頭まで、二十作ものヒットシリーズを出し続けたビッグタイトル「アルティメットファンタジー」とも比較される、傑作RPG「星夜の誓」オフライン版は、参加した全てのメンバーがプレーしていたのだ。


 ひとしきり盛り上がった後、高田ケンタロウは、星夜の誓のCGムーヴィを作ったので見てもらえないかと皆に提案した。

 その三十分のショートムーヴイは、素人が作ったにしては非常に素晴らしい出来で、参加者には概ね好評だった。

 高田ケンタロウは、背が高く、中々のハンサムボーイだったが、無口で全体に暗い影のある少年だった。


 オフ会が終わった後で、高田は、「東京と大阪のオフ会も計画してるでしょ?」とコージに話し掛けた。

 知っているなら否定することも出来ない。コージは黙って頷いた。

 高田は、そのオフ会にも出たい、そして自分のショートムーヴィの上演をしたいと申し出た。

 コージ自身、そのムーヴィが気に入っていたので、その申し出を受け入れることにした。

 最後の福岡にも出たいと言われた時は、少しだけ嫌な気分がしたが、まさかそこだけを断る理由は無かった。


 でも…… あのムーヴィを見た後の参加者が、作品の出来とは関係無く、誰もが何故か興奮し過ぎていたことを、コージは不思議に思ったものだ。

 なにしろコージ自身が、さほどどうってこともないシーンで、強く興奮した覚えがあるのだ。


 仙台に参加した者の中には、二名の突然死被害者が居た。

 東京と大阪のオフ会は、それぞれ自分と高田を含む十六名の参加者があり、その内三名ずつの被害者が混じっていた。

 福岡では、自分と高田を含む十名の参加者があり、被害者が二名出ていた。


 つまり四箇所のオフ会に参加した、自分と高田を含む四七名中、十名もの突然死被害者が含まれて居たのだ。

 コージは、奥深く侵食してくる嫌な予感から、オフ会についてそれ以上考えることを止めて、もう一つの趣味の本を開いた。


「CMの歴史」…… その本を読んで行く内に、「コーラとサブリミナル効果」という項目でコージは引っ掛かった。

 その項目をむさぼる様に読んでから、コージはインターネットで、次から次へと検索を始めた。

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