第36話

 深い森の中で、サリアが狙撃銃を構えていた。銃口から、うっすらと硝煙が立ち上る。


 そのすぐ横では、ライツが地面に設置した弾着観測用スコープを覗き込んでいた。


 地面に膝をついたシャーナと、頭を穿たれた老人の遺体が、高倍率スコープに映し出されている。


「見事です」


 ライツは感嘆の声を上げた。ほとんど明かりもない状況で、500m離れた人の頭を吹き飛ばせる狙撃手など、そうそういない。


「私は警察特殊部隊で狙撃をする機会があったからね」


「それは良い機会を得ましたね。私の所属していた連邦警護庁にも狙撃班はありましたが、私は関わる機会がなかったのですよ」


 ライツとサリアが会話を交わす中、ザルノフ率いるAPMC社の社員たちが現場へと侵入し、生存者の救助と死者の回収を開始した。


 ガーランは、地面にうずくまるシャーナに駆け寄る。


「大丈夫かい?」


「大丈夫‥‥だ」


 シャーナは呻くように返事をする。


「ごめん。まさか裏切り者が出るとは」


 ガーランは謝った。


「いや。私も‥‥生徒の数を減らしてしまった」


「気にしないで。どこか痛いところは」


 ガーランは、そう聞いた。


「体に力が入らない」


 シャーナはそう言いながらも何とか立ち上がろうとする。次の瞬間、体に走った激痛に顔を歪めた。


 ガーランはそれを制すると、シャーナを背負う。


「大した距離じゃないし、俺が背負っていくよ」


 これほどの山奥には車も近づけないし、いくらAPMC社が大企業でも、簡単な救助にまで駆り出せるほどのヘリは保有していない。


「すまない」


「気にしないで。救助は俺の仕事だし」


 謝るシャーナに、ガーランは微笑みかけた。


 闇の中で、戦闘の跡がかき消されていく。

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