虧月(きげつ)

 一


 加夜かよは、一人目の子を手元に置き、自分で育てることは叶いましたが、

 二人目の子は、手放さざるを得ませんでした。


 月からの「迎え」は容赦なく、

 たとえそれが男児であろうと 連れていってしまったのでした。


 ただ、

 不幸中の幸いか、


 加夜かよの妹は、母の胎内から出ると間もなく、日の目を見ることもなく、連れていかれたのに対し、

 加夜かよの二人目の子は、その子が産まれて初めての新月を迎える日まで、地で暮らしていたというのです。


 それは、ほんのわずかな間でしたけど。


 そして、先ほどまでいたはずの赤子が急に消えたことで、

 大騒ぎになるどころか、

 その赤子の存在は、地の人々の記憶からは消されていたというのですから、驚きです。


 そう、

 加夜かよ夕美ゆうみ――加夜かよの産んだ娘――だけが、その男児のことを覚えているだけ。


 だから、

 加夜かよは、早々に

 まだ幼い夕美ゆうみに、おのれが月人つきひとの血をけた者であることを告げてしまったそうです。


 期せずして、夕美ゆうみは幼くして「月姫つきひめ」となったのです。





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