(9)

「やっぱ、使い過ぎだよ、あの隠し通路……」

「いつかは、こうなると思ってたが……」

 そこに居たのは、ラートリーと、その妹。

 そして、隣国の王子の従者を王子に仕立て上げて、第1王女と隣国の王子との結婚を賭けた勝負を申し込んだ草原の民達。

「な……何、やってんの?」

「事態が解決するまで、一時休戦だ。我々も王都の警固隊に協力して醜豚鬼オークの族長の息子を助け出す事になった」

 そう言ったのは……首の両側辺りに輪っかになった三つ編みの黒髪が有る髪型の女の子。……多分、一〇代前半。

「あ……それじゃ、これ……アスランに頼まれて持って来た……」

「アスラン……?……誰?」

 そう訊き返したラートリーの表情は……「嫌な予感しかしない」的な感じ……。

「あの……だから……」

「本当に、あいつ……そんなを使ったのか?」

「え……っ?」

「そこまでバレバレのは『偽名』って言わない」

 ラートリーの妹は……顔に手を当てて……呆れたような声で、そう続ける。

 えっ? ど……どうゆ〜事?

「ところで、その刀、まさか……『天子殺し』か……?」

「う……うん……」

「役に立つのか?」

 そう訊いたのは……草原の民の1人。背は低いけど、筋肉が付いてそうながっしりした体格の二〇代ぐらいの男。正方形ましかくの胴体に手足と頭が付いてるよ〜な感じで……首も腕も足も太い。

「当って傷さえ付けられればな……。逆に言えば、当らなければ意味は無い。当っても皮1枚程度の傷じゃ、これも意味が無い」

「我々より、遥かに素早さが上で大型の獣を素手で殺せる剛力の相手の懐に入り最低でも肉まで達する傷を付けねば意味は無い……余程の死にたがりにしか使い熟せんな……」

 グリフォンガルーダの族長とか云う人が、そう続ける。

 全員が、1人の男を見る。二十半ばぐらいの……中肉中背ぐらいの草原の民にしては浅黒い肌と明るめの色の髪の男。

「無理だ。俺程度の腕では、良くて相打ち。それで全員を殺すつもりなら……剣の腕前が俺と同じ程度の奴を十人ぐらい……あと、その刀も人数分用意しないと確実とは言えん」

「そんなモノで、本当に奴らを殺せた事が有ったのか?」

 そう訊いたのは、細身で色白の女の人。

「あたしが聞いた話では、元々は、同じ魔法がかかったやじりが沢山作られたらしいけど……この国が出来た時に、全部、使い果しちゃったみたい」

 ラートリーの妹が答える。

「もう1つ。一度罹ったら死ぬまで二度と罹らない流行病はやりやまいが有るだろ。それと似た事が、その刀にも有る」

「何が言いたい雪豹イルビス?」

「その刀と似たような魔法が込められた武器で傷を受けた事が有って……しかも生き延びて傷が治癒した奴は、二度と、その刀に込められた魔法が効かなくなるらしい」

「そんな奴が居るのか?」

「確率は低いが……逆に言えば、その刀で傷を負わせるまで、その刀に込められた魔法が効くかは判らんって事だ。ま、あいつが思ってるほど役に立つかは不明だが……一応、受け取っておく。君は、早く、王宮に戻れ」

「い……いや……でも……戻れない」

「何で?」

「扉にかけられた魔法で」

「はぁ?」

「来る時は、他の侍女に頼んで開けてもらったけど……戻る時は……あと……」

「どうなってる? あと、何だ?」

「あの……アスラン……で良いんだっけ……あの子に酷い事しちゃって」

 全員が顔を見合せ……。

「あいつに何をやった?」

「え……えっと……」

「何か想像も付かんが……言いにくい事か?」

「そ……その……」

「……」

「……ベッドに押し倒した」

?」

「……だ……だから、君が連れて来た女の子。アスランって名乗ってた子」

 全員がポカ〜ン……となり……。

 長い時間が流れたのか……それとも……短い時間を長く感じたのか……。

 そして……。

 ペタっ……。

 ラートリーの妹が、見た事も無い……文字なのか模様なのかも判らないモノが描かれた紙を懐から取り出すと、ボクのお腹の辺りに押し当て……。

 ぎ……ぎゃああああああああッ‼

「し……信じらんない……同じ体質だよ……」

 意識が薄れていく中、聞こえた最後の言葉が、それだった。

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