(7)

「八方塞がりだな……どう転んでも、何かマズい事が起きる。それも……戦争再開級の……」

 横のベッドで寝てるラートリーは、この世の終りでも始まるかのような声で、そう言った。

「何か、良い手を思い付かない?」

「国の2つ3つ滅ぼしても大丈夫なら……いくつか……」

「大丈夫じゃないよ。ボクが仕えてる家の領地は国境近くなんで、戦争始まったら……」

「おい、どうした、お前らしくもねえ」

 その時、ここに居る筈も無い人物の声が……。

「おい、どうやって、王宮に忍び込んだ?」

 いつの間にか部屋に居たのは……あの日、ラートリーと出会った時に居た2人の内の1人。

 ラートリーの妹じゃない方。

「訊くだけ野暮だろ。ところで、お前の姉貴は居ねえよな? お前の姉貴とお袋さんだけは苦手でな。あたしにとっちゃ、実の姉と母親以上に頭が上がんねえ相手なんでな」

「わかった。呼んで来る。そこを動くな」

「大真面目な表情ツラじゃねえって事は本気か。マジで、それだけは勘弁してくれ」

「どう云う事?」

「あ〜、こいつ下んねえ冗談を言う時に大真面目な表情ツラになる癖が有ってな」

「呑気なモノだな。エラい事になるぞ。草原の民の部族長会議クリルタイが、夏至の祭ナーダムの武芸大会で全種目3回連続優勝した誰かさんに勇士の中の勇士タルカン・バートルの称号を授ける事を決定した」

「え?……それ……たしか、ここ五〇年ほど、誰も授かってない……」

「そして、タルカン・バートルを次の国王に推薦するのが草原の民の総意だと言ってきやがった。あいつが国王になると国が滅ぶぞ」

「え……えっと……言いたい事は色々有るけど……その……えっと……あいつ本人が嫌がるだろ」

「あの馬鹿は、変な所でお調子者だ。だからこそ人に好かれるが、同時にだからこそ一国の王にしたら危ない。知り合いから『国王になってもらえませんか?』とか頼まれたら……断わり切れんぞ……。自分が国を滅ぼす暗君になりかねない、と自分で判っていたとしてもな」

「あ……待て……」

「どうした?」

「って事は……草原の民の族長の誰かが、王都に来てるのか?」

「ああ、グルフォンガルーダの族長が……夏至の祭ナーダムの武芸大会の上位者入賞者を引き連れてな」

「そっか……だから、あいつが来てたのか?」

「あいつ?」

「ほら……お前に『姉貴、姉貴』とか言ってなついてた、あの女の子……。ションホルの部族のテルマだっけ?」

「いつ、どこに現われた?」

「お前が……王宮に行ったのと入れ違いで……あたし達が居た店にさ……」

「まさか……」

「ああ、話しちまった。

「このマヌケ野郎がぁッ‼」

 夜の王宮にラートリーの絶叫が轟いた。

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