(5)

「第一王女のミトラ殿下の身代わりになって、西の隣国である『神聖王国』の王太子との見合いに出て欲しい」

 ボクとお嬢様は王宮内に通されると、いきなりトンデモない事を頼まれた。

「ちょっと……待って下さい」

 お嬢様は、そう言い出した案内役の片方……浅黒めの肌に赤い短髪のボクやお嬢様より3〜4歳ほど齢上の女騎士にそう言った。

「そもそも、王女殿下は、何故、そのお見合いに出られないのですか?」

「子供の頃から御病弱でな。この6〜7年ほど、ずっと空気の綺麗な田舎で療養中だ。不潔極まりない西方の蛮族の町などに送ったら、即、御病気になって、あっと言う間に御崩御だ」

 案内役のもう片方……東方の遊牧民風の容貌の……多分、「魔法使い」らしい女の人は、そう解説した。

「あと、第二王女のソーマ殿下は、下世話な言い方をすれば、まだ、初潮も来てないような御年齢だ。『王』を称してるだけの事実上の蛮族の酋長の一族に嫁がせるなど、ありとあらる点で論外だ。『神聖王国』を名乗る蛮族どもとの講和の為の政略結婚なのに、新しい戦争の火種になるような事態が起きるのは明らかだ」

「それと、破談にしてもいいが、必ず先方の都合で断わった形にしてくれ。細かい事は私達が指示を出す」

「で……ですが……私は……その……王女殿下と……」

「似てない。それが手違いの1つだ」

 実は、この国は、多民族国家だ。

 元々は、ボクやお嬢様のような……ホントに嫌な呼び方だけど……「病人肌ペイルズ」が住んでいた地に、百数十年前に東方から遊牧民がやって来た。

 それが、今の王族の祖先だ。

 しかも、その遊牧民達は、大陸各地から、様々な民族の出身者を連れて来た。

 そのせいで、庶民は……色んな肌・目・髪・体格が入り混じり……王族や準王族級の貴族は、髪や目は黒か茶色、肌はボクたちより、やや濃いぐらいの人達がほとんどで、中の上ぐらいまでの貴族は、庶民と同じような感じ、下級貴族は……全くもってクソな呼び方だけど「病人肌ペイルズ」が主流。

「少し前に神聖王国との永きにわたる戦争が終った事は知っているな? その講和条約締結の際に……向こうの国の王が、我が国の王女と自分の息子を結婚させたいと言い出した。年頃の王女が居る事は知っていたが、御病弱な事までは知らなかったらしい」

「は……はぁ……」

「で、ミトラ王女と年齢が近く、王都で顔を知られていない貴族の娘、それも、王族に見えない事もない風貌の者を探したのだが……」

「幸か不幸か、今の王妃殿下は、北方のフーナランツ王国の御出身で、髪や目の色は君に似ている。もう、既に神聖王国の王子は王都に到着している以上、今から代りを探してる時間は無い。いざとなったら、『母親似だ』と言い張るしか有るまい」

「わ……判りました……」

「あの、お嬢様、安請け合いするような話じゃ……」

「あの……その代りですが……」

「だから、お嬢様……」

「恥ずかしながら、我が一族は、貴族の端クレとは言え貧乏でして……」

「何が言いたいんだ?」

「破談になった場合は、帰りの旅費は王宮持ちなのでしょうか?」

「はぁ?」

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