第9話 群れの頭

 士官学校としては、毎日空蹴の取得介助をして欲しい。

 早目に中層で安定して討伐が出来る、高級量産機の量産をさせたい。

 日替わりの交代ではなく、ウサギを獲ったら、空蹴持ちのイノシシの生息地に行く案を提唱された。

 養成所組も討伐に付き合うだけで経験値が入るので、玉を取れなくても能力が上がる。


 本気の討伐隊仕様で、犬が二犬加わった。

 茶柴で生命力感知の命見の一丸イチマル姐さんと、黒柴で男のズーム望遠鏡視覚の遠覚の橡丸トチマル

 橡丸は狼の群れに生まれてしまった犬で、まだ十五歳になっていない。

 子犬っぽさが残っていて、ちょっとぽやっとした感じで可愛い。

 一丸姐さんも可愛くないわけではない。


 大勢で歩くとリスが寄って来ないので、養成所組が先行、リスが出なくなったら士官学校が合流する。

 キハダトカゲがいたら俺の個人収入、ツタヘビは士官学校に獲らせる。

 ウサギの生息地に着いたら、まず、おでこの菱形が大きい平角ウサギを殺ってしまう。

 予備動作なしの高速移動、瞬歩持ち。出たら儲けもの程度の出現率らしいが。

 ウサギは数がいるので、跳躍は一つは出る。


 ウサギの群れを三つ潰したら、中層の縁に行く。

 跳猪チョウチョは地上性で、知らないとただ跳んだと思うと空中から襲われる初見殺し。

 不利になると跳んで逃げる。

 判っていれば、投石器で礫をぶつけて、跳んで避けたのを闘気弾で撃ち、落ちたら逃がさずにガシガシすればいい。

 命見ならば潜んでいるのが判るのだけど、そこら中に命があるので個体を識別出来る範囲が狭い。

 

 跳猪は五匹獲ったが、玉は出なかった。

 十腕蛇が一匹、六級の平たい岩に擬態しているカエル、眠岩が一匹。

 カエルはその名の通り、浅く寝ていて気配が感じられない。

 こっちを意識していないので俺にも判らない。

 うっかり近寄ると起きて喰われる。

 一丸姐さんがいないと危ない。

 見つけた姐さんと仕留めた俺で山分け。


 帰り着くと、秋田犬くらいなのに明らかに子犬の見た目の、明るい色の茶柴が、とことこやって来た。

 おかえりーみたいな雰囲気。

 橡丸が小走りで行って、懐かれている。


「あの子紹介して」


 一丸姐さんに言ってしまった。


栗丸クリマルです。橡丸と同じ森生まれで、授かりの技能が、どちらに行けばより良い結果を得れらるか判る、幸運の道標だったお陰で、森から出られました」

 

 引率の大尉の人が教えてくれた。

 撫ぜたいと思って見ていると、橡丸が俺の視線から栗丸を隠す。

 シスコンかよ。柴犬相手に無理強いは危険なので、諦めた。

 栗丸を撫ぜたいと夕香に言うと「あたしを撫ぜりゃいいじゃないか」と言い返された。それとは別なんだけど。


 識別持ちの職人と文官が森に入ってみたが、見られていて怖い感じがするだけで、敵の位置が正確に判るのはいない。

 武人になるつもりで鍛えて、十二になって直ぐに大量に玉を吸収した所為のようだ。

 俺の代わりはいないので、毎日仕事である。


 犬達とは仲良くなって、心話が通じるようになった。

 俺を群れの長と見て、頭と呼ぶようになった。

 栗丸を触ろうとすると橡丸は嫌がるけど。

 一丸姐さんは触らせてくれる。別種族でも、強い男に好かれて触られるのは、悪くないのだそうだ。


 全財産はたいて買った五級の霊核が、さほど無理せずに買える。

 銀は中層まで行けば、夕香がいくらでも拾える。

 やはり大量に玉を吸収したお陰らしく、他の宝飾科の子はそこまでではない。

 士官学校にも青燕様自作のライトニングが保管されていたので、写させてもらった。

 銀の指輪を作製して売って、夕香ももう一丁作った。


 増えた銃を両親、ジジババ、叔母ちゃんに送ったら、叔母ちゃんがこっちに来たがった。

 ババが孕んで、子守をさせられそうなので逃げて来たい。

 士官学校に打診したら、遠射、一倍半の強撃、空蹴持ちなら戦力として申し分なく、入隊希望なら中尉で採用したいと言われた。

 叔母ちゃんは軍人になる気はないので、傭兵で参加させてもらう事になった。


 やって来た叔母ちゃんは、結構女っぽくなっていた。


「独りなのか。男作らなかったの」

「里の合う年頃の男は、全部おめえが叩きのめしたろ。こっちにゃ、お国の上澄みの男がいるだろって話よ」

「士族か貴族の子だぞ」

「なにも夫婦めおとにならなくてもいいやな。種だけ受けて、能のあるガキ産めりゃいいんだ」


 庶民で能力が高く、金銭的に余裕のある女に、結構この手のがいる。

 金を払えれば、神殿の保育所がある。

 話をしていると栗丸がとことこやって来た。


【頭、その人、誰?】

「叔母ちゃん。お袋の妹」

【トチニイと、どっちが上?】


 犬なので、上下関係に厳しい。


「武器使っていいなら、叔母ちゃんが圧倒的に強いが」

【ならその人が上】

「おめえ、その子と話してんの?」

「ああ、神官様と心話力取りに行ったの、話してなかったか」

「聞いてねえよ。どこで取れるんだ」

「降星の北の中層の縁。ここだと北西でちょっと遠い。連れてってもらわないと無理」

「そうか。なあ、おめえ、さっきからあたしのこと、叔母ちゃんて言ってねえか」

「栗丸に説明してたから。叔母に言った訳じゃない」


 何とか誤魔化して、職員に叔母ちゃんを紹介した。

 一丸姐さんと橡丸にも紹介する。橡丸は即座に服従した。

 翌日から早速叔母ちゃんも参加して、影猫と平角ウサギを獲らせる。

 そう簡単に玉は出ない。


「一毛でも強くなりてえなら、先に翁児とか言うの獲っちまった方がいいんじゃねえか」

「凄い中途半端な場所にいるんだよね。日帰りは無理で、わざわざ野営するのもなんだかってとこ」

「や、サルがめっからねえからやらなかっただけでえ」

「碧隼教官が索敵をしてくれるなら、野営は出来ます。魔窟の入り口を殲滅すれば、十日は湧きません。魔窟は定期の討伐がありますので」


 叔母ちゃんが余計なこと言うから、大尉殿が乗り気になってしまった。

 個人差があるので、犬と心が通うほどの力を得られなくても、魔物の恫喝や威圧に抵抗出来るようになる。

 その内職人も出来るようになると思った、師匠も乗り気である。


「道具貸してくれりゃ、平角ウサギは俺でも獲れら。野干もトカゲの鎧でこっちの数がいりゃ怪我もしねえ。職人のガキの面倒はこっちで見とく」


 断ったら叔母ちゃん含め、全員で襲い掛かって来そうな気配に押されて、師匠に拳銃入りのホルスターを渡す。好きなところに付けて。

 帰ると話が勝手に進んで、魔窟の中では五級はいくらでも獲れるので、現地生産出来るようにライトニングが貸し出しになった。

 討伐隊が集めた霊核で生産してくれと言うこと。


 討伐隊の隊長は、貴族に片足突っ込んでる上佐だったが、俺の事は其方そちらと呼ぶ。

 平民の小僧に対しては過分で、かなり気を使われている。 

 魔窟入口を殲滅すると、野営の準備になったが、手伝おうにも何もわからないので邪魔になるだけ。

 流石に外に行く時間はないので、六級の魔物がいる少し奥を覗いた。

 洞窟なのだが、学校の講堂を思い出させる広さがあった。

 魔窟の壁は全体が謎発光していて、足元は見える程度に薄暗いのだが、夜目のお陰で夕方程に見える。


 こちらを窺っている意識に向かって撃てば、ほぼ頭に当たる。

 猿型爬虫類みたいな魔物が、崩れて砂になって消え、霊核だけが残る。

 魔窟は訓練場なのか、同格の霊核を集めやすくした炭鉱なのか。

 六匹撃って帰ったら、隊長に銀の塊と五級の霊核を六十個出されてしまった。


「多いか?」

「大丈夫です」


 ちょっと複雑な折り紙くらいの速さで出来るのだけど、ゆっくり作る。

 夕飯の後、武器の手入れなどを終わらせてもう寝るしかする事がなくなってから、隊長に十丁渡した。


「もう、全部出来たのか」

「はい、ご覧の通りです」


 なんか、失敗した。


「銃帯、と言うものを作っては貰えぬか」

「お好みの皮はお持ちですか。十腕蛇で宜しければすぐにお作りしますが」

「それで頼む」

「形は同じで良いでしょうか。腰の鞘を左に付けたり、羽織るように吊るすのもありますが」


 右手に刃物を持って、左で銃もある。ショルダーホルスターも見せたが、俺と同じのになった。

 体格に合わせたガンベルトを作る。多少自動調節されるとしても、合わせて作った方がしっくりくる。

 渡すと、おもちゃを貰った子供みたいな雰囲気になる。


「いや、かたじけない」


 副官の中佐と、中隊長の大尉三人分も作った。残業代は出ない。

 革代は、後で請求すれば貰えるやら貰えないやら。

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