第30話 キムチの三種盛り

「ひとにきんしゅちらつかせておいて……」


 ジト目の、幼女魔王。

 その視線の先には、ハイボールを一気飲みする機械メイド皇帝の姿。


「悔しかったら健康体になる事デス」


 機械メイド皇帝は機械なので、飲みながら喋れる。

 ごっごっというのど越しと共に発音する気分はどんな感じなのだろうか。


「ふぅ……身体に悪くて素晴らしいデス」


 どん、とグラスを置く機械メイド皇帝。

 満足気である。


「ご主人サマ」

「へい」

「シャキシャキ」

「へい」


 ナッツをぼりぼり摘みながら、平然と注文する、機械メイド皇帝。

 真顔である。

 その横の幼女魔王はぐぬぬ顔である。


「ひ、ひとのツマミたべながらついかちゅーもん……!」

「ナッツで足りる訳ないデスよね」

「それはそう」


 納得してしまった幼女魔王。

 ナッツだけでしみじみ飲める夜もあると思うが、今夜はそうでもないらしい。


「へい、おまち」


 という訳で、キムチの三種盛りである。

 内訳は、よく浸みた大根と、キュウリと、安かった白菜。


「……シャキシャキだけでつうじるもの?」

「前の身体の時は、よく来てくださったので」

「デス」


 最近はご無沙汰だったが、機械メイド皇帝……元機械皇帝は、うちの常連であった。

 幼女魔王が『いつもの』というだけで生ビールを注文した気になるのと同じく、機械メイド皇帝は『キムチ』が『シャキシャキ』なのである。わかりにくい。


「……あっかぁ」

「生命の赤色デス。魔王」


 赤いキムチを見つめ、赤い目をうへぇとさせる、幼女魔王。

 箸を器用に使い、機械メイド皇帝はそれにパクつき始めた。


「うむ。シャキシャキデス」


 食べながら喋れる、機械メイド皇帝。

 その音声には『シャキシャキ』『ジャクッ』『ごくん』という咀嚼音が、テレビのCMみたいに強調された感じで混ざっていた。


「……」


 人の咀嚼音なんて聞きたくないものであるが、機械メイド皇帝のそれは、とても、こう。


「……たいしょー、わたしにも……」


 幼女魔王がこそこそ声で注文してくる位には、食欲をそそられるものであったらしい。


「だめデス」


 なお、機械メイド皇帝によって即座に却下された模様。


「うぇ!?」

「まぁ一口。あーん」

「やさしい……! あーん!!!」


 優しい機械メイド皇帝、大根を幼女魔王にあーんする。

 球体関節メイドさんが、よだれを垂らしたツインドリル幼女にあーんしている構図である。悪くなかった。


「はむっ!」


 パクつく、幼女魔王。

 もにゅもにゅとしてから、固まる。


「……………」

「デス?」

DEATHしぬ


 幼女魔王があーんから逃げた。一気に生ビールをあおる。

 顔が真っ赤。

 涙目であるが、酔っぱらった訳ではなさそう。


「…………かりゃい!!!!!」

「やめておいてよかったデショウ?」

「えんぶん! かたまり! すぱいしー! いしゃのくせにひぃー!!」

「デスデスデス」


 謎の笑い方をする、機械メイド皇帝。

 おかわりしたハイボールを一気。満足そうな表情で、言い残す。


「健康だから、身体に悪いモノがおいしいのデス」


 顔まっか幼女魔王を置いて、機械メイド皇帝は退店した。

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