第26話 パリパリ手羽先

「勇者に奢ったんですから、私にも奢ってくださいよ」


 という事で、本日は新人闇落ち女騎士と幼女魔王の、2人飲みである。


「へい、おまち」


 いつも通りのレモンサワー濃い目と、生ビール。

 カウンターで酒を迎えた2人は、悩まし気にメニュー石板を弄りはじめた。


「しかし、かぶりつけるお肉があったんですね……行けばよかったなぁ会議」

「いちおーしゅのーじんかいぎだからねぇ」

「首脳陣会議に勇者を連れて行く魔王がいますか」

「いたんだなぁこれが」


 新人闇落ち女騎士も、もう新人ではないかもしれない。

 かなり馴染んだ様子で、幼女魔王に愚痴を言っている。


「じゃあ私もスペアリブを……」

「まった」

「どうしたんです? 魔王様」

「まぞくどっくがこわい」


 今更ではなかろうか。


「こっちのさ、へるしーっぽいとりさんにしよ、ね?」

「えー 私まだ魔族ドック気にする歳じゃないんですけど……」

「……だめ?」


 部下に対してうるうる上目遣いする、幼女魔王。

 うぐ、と見た目だけは年上の闇落ち女騎士が呻いた。


「…………分かりました」

「わぁい! おんなきしだいすき!!」

「代わりに今度の首脳陣会議入れてくださいよぉ、前の四天王の機械皇帝ギガントマキア殺したんですから、私にもその位の実力は……」

「かんがえとく」


 と、いう事で。


「へい、おまち」


 パリパリ手羽先である。

 見ただけでパリッパリと分かる、良い色と焦げ目の、手羽先。

 塩コショウも肉も良い香りのする、かぶりついて食べられる肉だ。


「うむ、へるしー」


 力強く頷く、幼女魔王。


「鶏ですものね」


 洋食より和食の方がヘルシーに見える理論だろうか。

 忘れがちだが、幼女魔王も新人闇落ち女騎士も、どちらかというと西洋風の美少女と美女である。


「……あれ」

「どったの?」

「あの……フォークとナイフは?」


 急に女騎士感を出してきた、闇落ち女騎士。


「え、かぶりつきたいんでしょ?」

「これ握り手とかありませんけど……」

「わぁ」


 どうするか考える、幼女魔王。

 すると幼女魔王は、白い綺麗な指を、パリパリ手羽先に伸ばした。


「はぐ」

「わっ」

「ばきばきむしゃ……ッ!」

「わぁ……」


 豪快な幼女魔王である。

 手羽先を素手でバキッと割り、貪り、残るは綺麗な骨だけ。


「ちゅるん」

「ま、魔王様……」

「ふふ」


 不敵に微笑む、幼女魔王。

 いざなわれる、闇落ち女騎士。

 姫君を誘惑する魔王とでも言いたげな景色である。


「あーはしたない。不味いですよ」

「はしたないねぇ、バキッ……おいしいねぇ……」

「パリッパリじゃないですか……ふざけてるんですか……?」

「あぶらとおにくとじゅわっと」

「さらにお酒ですね……」

「まずい……?」

「バキッむしゃぼ……すごく不味いですよ……これ……まずすぎません……?」

「うぇっへっへ」


 幸せそうなので、よかった。

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