第2話プロローグ~とある世界の出来事~2



ベーゼとノワールの周りには、大勢のバルキリー達。


一歩でも動けば、見つかってしまう状態となり

動くことも難しい。


思案を巡らせたベーゼは、覚悟を決めた。



「君は、このまま隠れているんだ」




そう言うと、インビシブルマントをノワールに託し、姿を現すベーゼ。



「魔王ベーゼ!」



バルキリー達にも緊張が走る。


「我の事を知っているようだな。


 ならば、話が早い。


 怪我をしたくなければ、道を開けろ!」


見得を切り、視線を集める。


「例の場所で、落ち合おう」


ベーゼは、小声で、そう呟くと、

逃げ道を作る為に、突撃する。



「ベーゼ・・・・・」


ベーゼは、バルキリー達の攻撃を躱しながら、約束通り退路を確保した。



──これで退路は確保できた。

  行ってくれ・・・・・


心の中で、呟くベーゼ。


その声が届いたのか、ノワールは、ベーゼが作った退路から逃亡を計り

いつもの待ち合わせ場所へと駆け出した。



ノワールを逃がすことに成功したベーゼは、

完全に退路を塞がれており、絶体絶命の状態。



「生かして捕らえよ、絶対に逃がすな!」


何処からか、発せられた指示に従い、

天使たちは、ベーゼ目掛けて、一斉に攻撃を仕掛ける。


「クッ!」


魔王といえど、四方八方からの攻撃に、防戦一方。


本来なら、魔法を放ち、一気に殲滅するところだが

ノワールの事を考えると、それも躊躇われる。


しかし、その甘さから、肩を貫かれてしまった。


ここぞとばかりに、攻撃を仕掛けて来る天使達。


こうなってしまえば、ベーゼも力を出さざるを得ない。


ベーゼが、暗黒のオーラを解放すると

天使たちは、その風圧に押されて吹き飛んだ。


次々と周囲の壁や木々に衝突する天使達。



包囲網が、完全に崩れた今、ベーゼは、再び魔法を使う。



「大地よ震え『アースクエイク』」



大地が揺れ、地面に亀裂が入る。


また、隆起した部分が、ベーゼと天使たちの間に、

壁のようなものを作り出した。


地上からの攻撃を防ぐことには成功したが

天使族は、羽を持つ。


上空で、待機していた天使たちは、

ベーゼに向かい魔法を放った。


だが、ベーゼは、笑みを浮かべている。


貫かれた肩より、流れ出る血を指先に付けると呪文を唱えた。



「我が血族と共に踊れ『フレイムバスター』」



ベーゼの血から、突如噴き出す炎。


その炎は、魔法を消し飛ばすと同時に、

上空から攻撃を仕掛けてきた天使たちをも焼いた。



「ギャァァァァァ!!!」




地上へと、落ちて行く天使達。


だが、ベーゼの攻撃は、まだ終わらない。




炎は、竜の様に空へと昇ると、天使族の里に向かって炎を吐いた。


炎の竜は、全てを喰らい尽くそうと暴れまくる。



「これが魔王の力なのか・・・・・」



「このままでは・・・・・」



魔王の力の一端を目の当たりにし、天使達は怯む。


だが・・・・・




「怯むな!


 魔王といえど、奴は、ただ一人。


 我らの力を見せつけよ!」




天使族の長、マリスィが姿を見せたのだ。


その後ろには、上位の天使達の姿もある。



「結界を用意せよ!」


マリスィの命令に従い、上位天使の4人は、四方に分かれ、

結界を張る準備に取り掛かる。



「ここは神の地。


『エルドラーダ』


 また、悪魔に断罪を与える地でもある。


 覚悟しろ!」



マリスィの言葉が、真実となる。


四方に飛んだ天使達が準備を終えると、

放たれる結界魔法。



『アンチマジックフィールド』



その魔法範囲は、天界を包み込み、

ベーゼの放った炎の竜を消滅させた。


だが、それだけではない。


魔王の力をも奪い取っていく。


「やるでないか・・・・・」


苦笑いをするしかないベーゼ。


『神が悪魔に断罪を与える地』


 その意味を、今更ながら、身に染みていた。


──このままでは・・・・・


悪魔に与える断罪。


それは、『消滅』。


魔王と言えど、例外ではない。


弱りつつあるベーゼに、

天使達の攻撃が、再開される。


再び、追い込まれていくベーゼ。


ベーゼは、撤退を決意し、退路を開きにかかる。


目標は、精霊界。




敵の攻撃を避けながら、渦中に飛び込み、一気に駆け抜ける。


しかし、天使族が、そう易々と逃がす筈がない。



飛び交う三又のトライデント


力を失いつつあるベーゼは、逃げるしかない。


傷つきながらも、精霊界まであと少しの所まで辿りつく。



──もうすぐだ・・・・・



そう思った瞬間、マリスィの放った槍が、ベーゼの背中に突き刺さる。



「うぐっ!」


『光る三又のトライデント


「がぁぁぁぁぁ!!!」


堪えきれない程の痛みに、思わず声を上げた。



光る三又のトライデントには、魔力を破壊する力がある。


ベーゼの体内を、神の光が駆け巡り、苦痛を与え、

魔力回路を、ズタズタに破壊した。


体内を駆け巡る激痛から、一度は、地面に伏したベーゼだったが

『ノワールが待っている』

その思いだけで、再び立ち上がり、

背中に突き刺さっていた光る三又のトライデントを抜いた。



──諦めない・・・・・私は、必ず・・・・・



傷だらけになりながらも、

ベーゼは、天使族からの攻撃を躱し、

ボロボロになりながらも精霊界に辿り着いた。



「此処まで来れば・・・・・」


その言葉を最後に、ベーゼは、意識を手放し、倒れる。


精霊界の大地に横たわるベーゼ。


しかし、その姿を発見したのは、天使族だった。


倒れているベーゼを取り囲む。


「此処までだな、魔王ベーゼ」


その言葉を最後にするかのように、各々が、武器を構える。


だが・・・・・



「待った、待った、待ったぁぁぁぁぁ!」



声を張り上げ、上位精霊【フーカ】が、現れる。



「ここは、精霊界だよ。


 戦闘禁止!」




「邪魔をするな!


 これは、天使と悪魔の間での事。


 貴様らは、関係ない!」



天使族の1人が吠えた。


フーカは、その天使を睨みつける。



「それって、ルールを破ることになるよ。

 

 僕たちも『敵』になるけど、いいの?」



いつの間にか、フーカの後ろには、大勢の精霊が集まっている。



「クッ・・・いつの間に・・・・・」



お互いに、対峙した状態で動きが止まっている。


その真ん中で、横たわっているベーゼを

突然、緑の蔦が、繭の様に包み込む。


そして・・・この地に響き渡る言葉。



「退きなさい・・・・」



天使族が驚いていると、いつの間にかベーゼの横には、

精霊女王【ルン】の姿があった。



「天使族の皆さま。


 ここは、精霊界。


 いかなる理由があっても、この地での争いは、許しません。


 『世界樹ユグドラシル』の名にかけて」



ルンは、手に持っていた花の鈴のついた杖を鳴らす。



『シャァァァァァン!』



大地に、響き渡る音。


その音色を聞いた草花が、人型へと変化する。


そして、現れる巨人。



「もう一度だけ、言います。


 退きなさい!」



天使族を囲むように、増え続ける巨人。



「クッ、

 撤退するぞ・・・・・」


武器を収めた天使族の撤退を確認すると、

ルンは、その場から消えた。



フーカが、ベーゼを覗き込む。


「なんとか生きているみたいだね」



「どうでもいいよ。

 そんな奴、放って置こうよ」



土の上位精霊【ソイル】は、フーカの手を引く。


関わりたくない。


ただそれだけ・・・・・。


それは、長年の付き合いから、フーカもわかっていた。


「でも、このままだと・・・・・」


「う~ん・・・・・仕方ないなぁ」


ソイルは、ベーゼに『回復の実』を与えた。



「これで大丈夫だから、帰ろうよ」



「はい、はい、わかったよ」



2体の上位精霊は、その場から去って行った。




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