24. 前世の実家とゆかりの三人! 後編

「いいじゃないか湯井ゆいさん。そんなに難しく考えなくても若いうちは色々試してみるものだよ」


 口を縫い付ける暇もなく、オフクロが俺にそんなことを言ってくる。


「そ、そういうわけにはいかないのでは……」

「この子の両親はね」


 オフクロが突然、昔話を始める態勢に入った。


 俺の背筋にゾクっと悪寒おかんが走る! オカンだけに!


「小さい時からの付き合いでね。幼馴染ってやつだったのさ」

「は、はぁ?」

「朝学校に行くにしてもね、毎日その幼馴染の子を待たせたりしてね。私から見ても、もう何年も恋人同士みたいなもんだったんだけど、うちのせがれはその子のことをずっと待たせてたみたいでね」


 や、やっぱりオフクロがいらぬことを娘の前ではなし始めたぞ……。

 しかも今は娘の友達もいるというのに。


「結局は、あの子は女の子ほうから告白させてね~」

「くっ……!」

「私は悔いたね! なんて情けない息子に育ててしまったのかと!」


 な、ななななんで、うちのオフクロがそんなことを知っているんだ!?

 まさかあいつ、全部オフクロに話していたのか!?


「そ、そぅなんですよぉ……」


 顔を真っ赤にして木幡こはたが縮こまってる。他人の家でこんな話を聞かされても困るだけだろうけど、その反応はあまりにも謎過ぎる。


「だから湯井ゆい君! ぐだぐだ言ってないで付き合いなさい! 男は度胸! 女は愛嬌! 何でも試してみなさい!」


 がぁああああああ!

 オフクロがまた馬鹿な事を言い始めた!


 それを言われたらそれ以上何にも言えないだろうがよーーー!


「えへへへ。よろしくね唯人ゆいと君」


 その気になった琴乃ことのが俺の腕に思いっきり組みついてきた。

 



※※※




「それで! それで! どうやってお父さんは最初にお母さんを連れてきたの!?」

「あれは冬の寒い日にね――」


 実の親から実の娘へ、赤裸々に俺たちの馴れ初めが語られていく。

 俺はそれを黙って聞くことしかできない。

 あんまりな拷問に血の涙が出てくる。


 ――これは罰だ。


 俺の過ちを天国にいるアイツが罰しているのだ。


「そ、それであの人はなんて言ってたんですか!?」


 木幡こはたも楽しそうにその会話に食いついている。


「それでね、あの子は“それでもあいつが好きだから”って格好つけて言うわけよ。なんだかそれ聞いている私のほうが恥ずかしくなっちゃったわ」


「「キャーーーー!!」」


 よりによって娘の友達にまで、の知られたくない話を始めるうちのオフクロ。

 

 許さぬ……この恨みは死んでも忘れないからな……一回死んでるけど。

 

「だからね。男女なんて付き合ってみないと分からないこともあると思うわけよ。あの子の漫画みたいに恋愛って実際は付き合って終わりじゃないのよ! むしろ恋愛は付き合ってからが始まりよ!」


 何でオフクロが俺の漫画の内容を知ってるんだ!


 鬼め! 悪魔め! 

 親から恋愛論聞かされる子供の気持ちを考えてみろってんだ!


 もう耳にふたをしよう。

 できるだけオフクロの話は聞かないようにしよう……。


「じゃ、じゃあ私と唯人ゆいと君はこれからがスタートなんだ!」


 琴乃ことのが胸の前で力いっぱいに両手を握っている。


 だ、だからスタートしちゃいけない関係なんだよ俺たちは……。

 

(……やっぱり俺がちゃんとしなければいけなかった)


 オフクロにひっそりと戦力外通告をする。

 オフクロが入ってくると、さらに場が混乱するだけだ。


琴乃ことの、一回ちゃんと話さないか?」

「話す?」

「これからのことをちゃんと話そう」


 オフクロと木幡こはたが勝手に盛り上がっているので、俺は琴乃ことのを連れて庭のほうに行くことにした。




※※※




「オフ……おばあちゃんはああ言ってたけど、俺やっぱり琴乃ことのとは付き合えない」

「なんで?」


 あれ? もう少しショックそうな顔されるかなぁと思ったけど、思ったよりも琴乃ことのの表情は明るかった。


琴乃ことののことは本当に大切に思ってるけど、今の俺じゃ付き合うことはできないんだ」

「私のことあんなに好きだって言ってくれたのに……」

「あの言葉に嘘はない! け、けど今の俺じゃ琴乃ことのを傷つけることになってしまうかもしれないから……」


 もしかすると……。


 もしかするとだが、琴乃ことのが俺のことを父親だと気づいてしまうときがあるかもしれない。


 そのときに実は父親と付き合ってたなんて知ったら、琴乃ことのは計り知れないショックを受けてしまうだろう。


 そもそも娘を恋愛対象として見ることはできないが、もし俺が湯井ゆい唯人ゆいととして古藤ことう琴乃ことのを攻略してしまったら、俺は前世の自分を捨ててしまうことになってしまう。


 だから、絶対に古藤ことう琴乃ことの湯井ゆい唯人ゆいとを攻略させるわけにはいかないのだ!


「えへへ。じゃあ、私が唯人ゆいと君にもっと好きになってもらえるように頑張ればいいだけでしょ?」

「え?」

唯人ゆいと君にもっともっと好きになってもらえるよう頑張るから! 唯人ゆいと君のことは私が必ず幸せにするから!」


 そんな俺の思いとは裏腹に琴乃ことのが凄いことを言ってきた。


「だから付き合うって言うのはとりあえず保留でよくない?」

「え゛ぇえっ?」


 娘が自らキープされにやってきた。


 あんなに幼かった琴乃ことのがとても大人びた表情をしている。


「ねぇねぇ、明日学校終わったらデート行こ? 心春こはるちゃんは抜きだからね!」


 琴乃ことののぐいぐいがまた別次元の方向に走り始めてしまった。

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