22-3. 同級生の告白を見た!

◆ 木幡こはた心春こはる ◆



 娘の告白現場を見た帰り道、私は湯井ゆい君と琴乃ことのと一緒に帰ることにした。


 だって! 勢いでまたあんなところに行かれたりしたら大変だし!


「えへへへ」


 琴乃ことのが思いっきり浮かれている。


 私たち親にもあんな顔を見せたときなかったのに……。


 琴乃ことのが私の手を離れていってしまったような、そんな寂しさを覚えずにはいられなかった。


(あの人が見たら、どんな顔をするんだろう)


 娘を溺愛していた夫の顔を思い浮かべる。

 娘に彼氏ができたと言ったら夫は喜ぶなのだろうか、それとも嫉妬するのだろうか。


(ふふっ、きっとどっちもだろうな)


 夫のなんとも言えない表情を思い浮かべてしまい、つい笑いがこぼれてしまった。


「こ、琴乃ことの、だからさ」

「なーに?」

「うっ……」


 さっきから湯井ゆい君が何かを言おうとしているがどうも歯切れが悪い。すごく困っているようにすら見える。


 ちょっと! 私たちの琴乃ことのを取ったんだからしっかりしなさいよ!


 そう言いたくなる気持ちをぐっと抑える。


 今は琴乃ことののただの同級生だしなぁ……。


 ただ、これからは友達として色々なアドバイスできるかもしれない。

 母親としての立場は失ってしまったけれど、それはそれで少し楽しみかもしれない。


(会いたいなぁ)


 娘の告白現場を見て、色々なことを思い出してしまった。


 ――私が初めて夫に告白した日のこと。


 初めてデートに行った日のこと。


 初めて夫の実家に行った日のこと。


 初めて一緒に暮らし始めた日のこと。


「ぐすっ……」


 思わず目の奥が熱くなってしまつた。。

 何故かこの世界に一人しかいないような感覚になってしまう。


 いけない! いけない!


 今は私が、琴乃ことのがちゃんと大人になれるように見守っていかなければいけないのに!


唯人ゆいと君ついたよーー!」


 あっ……。

 そんなことを考えていたら、琴乃ことのの家に着いてしまった。



(ここはもう美鈴みすずちゃんの家だと思っていいんだからね!)



 懐かしいなぁ……ここは私の家でもあったんだもんなぁ……。




※※※




「あっ! おばあちゃんがいるみたい! 唯人ゆいとくん、うちに寄ってって! ちょっと待っててね! 今掃除してくるから!」


 ドタバタと琴乃ことのが家に入っていく。


「キャーーー!」

「やったね琴乃ことのーー!」


 な、なにやら家の方から大きな声が聞こえてくる……。


 この賑やかな声は絶対にお義母さんだ。

 良かった。まだまだご健在みたいだ。


「うぅーー!」


 取り残された同級生がひどい顔をしている。

 何やら凄く複雑な表情を浮かべている。


「何よ。琴乃ことのと付き合えたのに嬉しくないの?」

「う、嬉しくない」


 なんだとっ!?

 そんな軽い気持ちで私たちの琴乃ことのと付き合うって言ったのか!


「はぁ? そんなふざけた気持ちで琴乃ことのと付き合うって言ったの!?」

「ち、違うんだって。あれは勘違いだっていうか……」


 か、勘違いぃ!?

 そんなんでうちの琴乃ことのを――。


 と、思ったが私もついさっきまで、人には言えないような思い違いをしていたので何も言えないかも……。


「いいんじゃない? とりあえず付き合ってみないと分からないもんだよ、男女なんて」

「と、とりあえずも付き合ったらダメなんだよぉ……」


 最近の若い子はシャキッとしないなぁ。

 ここまでの事態になったのだから、覚悟を決めればいいのに。


 私に似て琴乃ことのは可愛いし美人なんだから何の不満もないでしょうに。


「ちょっと湯井ゆい君! しっかりしなさいよ! あなたも琴乃ことののことが一番大切だって言ってたでしょ!」


 もしかすると湯井ゆい君は私の息子になるかもしれないのだ。

 こうなったら私がこの子のことを徹底的に鍛え上げなければ!


「うぅ……」


 顔面蒼白状態とはまさにこのこと。

 湯井ゆい君は本当の本当に何かを悩んでいるようだった。


「ごめん……美鈴みすず、本当にごめん……」


 ん? 前世の私の名前を呼ばれたような気がした。

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