16. 娘、父と添い寝をする♡

「えへへへ、幸せ~」


 娘と同じベッドにインしてしまった……。


 隣にいる琴乃ことのが思いっきり俺に抱きついている。


 これは決してやましい気持ちがあったわけではないぞ! 


 ただ、どうしても琴乃ことのに頼まれると嫌とはいえない。

 琴乃ことのがやりたいと言ったことをどうしても叶えてあげたくなる……。


「あんまりくっつかないで……」

「え~やだ~」


 まるで悪戯をしている子供みたいにどんどん俺にくっついてくる。


 琴乃ことのは同年代に比べてあどけない顔をしているので勘違いされやすいが、決して発育は悪い方ではない。


 年相応に出るところは出ているし、しっかり女の子らしい体つきをしている。


「……琴乃ことのは嫌じゃないの?」

「嫌じゃないよ。むしろ好き~」


 琴乃ことのはこの質問の本意を分かっていない!


 そんなにくっつくと色んな所が当たっているけど気にならないのかという意味だ!


「えへへ、唯人ゆいと君の足あったかーい」


 琴乃ことのが足と足をからめてくる!


「むしろ暑いわ!」

「そんなことないよーー!」


 絶対に、俺が死んでいる間にゴールデンウィークの気温は上がっているような気がする! 


 昔はこんなに暑くなかったのに!


「昔はこんなふうにお父さんと一緒に寝てたんだ」

「こ、琴乃ことのはもっと大人しかった気がするなぁ」

「えへへ、唯人ゆいと君がお父さんみたいことを言ってる~」


 ※本人です。

 何度目か分からないその言葉を心の中でつぶやく。


「お父さんはね、私が寝るまで頭を撫でてくれたんだ」

「そ、そうなんだ……」

「じーーー!」


 琴乃ことのが何かを期待した目でこちらを見ている! 目の前にある琴乃ことのの澄んだ瞳に吸い込まれそうだ!


「あぁ、もうはいはい!」


 直りかけの左手で琴乃ことのの髪を優しく撫でてやる。


 俺って甘いよなぁ……。

 でも、今まで寂しい思いをさせていたのだからこれくらいは――。


「――んっ」

「……」


 琴乃ことのの身体が急に強張った。

 ……あれ、思っていた反応と全然違う。


「ど、どうした?」

「ち、違うの。何だか緊張してきて……」


 琴乃ことのが俺の手の動きに合わせて、ビクッと身体を震わせる。

 

(……危ない予感がする)


「やめよう。俺、部屋の掃除をするから」

「えぇえええ! もうちょっと一緒に寝てようよ!」

「全ッッッ然、寝る気ないくせに!」

「だって――」


 琴乃ことのが俺の背中に手を回して、思いっきり顔を近づけてきた。


「お父さんね、寝る前は必ずチューしてくれたんだ。じゃないと昔は寝られなくて」

「……」


 めちゃくちゃぐいぐいきた!

 こ、こいつ……! 俺がお父さんならって言葉に弱いの気づいてるな。


唯人ゆいと君――」


 琴乃ことのがまたしても期待した目で俺のことを見ている!

 目を瞑って何かを待っている!


「はぁ……」


 潔く観念することにした。



チュッ



 琴乃ことのの前髪をかきわけて、おでこにキスをする。


「これでいいでしょ」

「えっ……?」


 琴乃ことのがものすごく驚いた表情をしていた。


 琴乃ことのが小さい頃は毎日おでこにチューをして寝るのが日課だった。


 決してマウストゥマウスではないからな!


「えへ、えへへへへ。ふひひひひひ」


 あっ……。

 琴乃ことのが更に壊れてしまった……。


「お父さんだぁ。唯人ゆいと君はお父さんだぁ」


 琴乃ことのが俺の背中を痛いくらいにぎゅっと掴んでくる。


「おとーさんしゅき~」


 琴乃ことのはそのまま幸せそうに眠りについてしまった。




※※※




「はっ!」


 しまった! 俺も琴乃ことのに釣られてつい寝てしまった!


 時間は、既にお昼前になっている!


「ま、まずい! 寝過ごした!」


 急いで起き上がろうしたが、服の裾に重みを感じた。


琴乃ことの! もうお昼だぞ!」


 琴乃ことのが俺の服を思いっきり握っていた。


「ぉとうさん、だいしゅき~」

「む」


 仕方ないなぁ琴乃ことのは! もう少し寝かせといてやるか!

 大好きって言葉が嬉しかったとかそういうのじゃないからな。


 グーで握られた手を無理矢理開いて、何とか琴乃ことのを起こさずに布団から脱出することができた。


 琴乃ことのが赤ちゃんのときもこんなことあったなぁ……。


「あれ? 携帯が光ってる」


 充電器に差しっぱなしになっていた俺の携帯がチカチカと光っている。


 琴乃ことのはここにいるので、当然琴乃ことの以外からのメッセージだ。


「い、嫌な予感がする」


 俺の携帯が受信をするのはほぼ百パーセント親か琴乃ことののみ


 親が仕事中にメッセージを送ってくるとは考えづらい……。


 そうなると新キャラがメッセージを送ってきたことになる。


「無視無視!」



トゥルルルルル!!



 携帯が鳴った!


 けどこの音は俺の着信音じゃない!」


「んぅ……うるさいなぁ。今、折角お父さんの夢を――」


 琴乃ことのは寝ぼけた顔つきのまま、枕元にあった自分の携帯を見る。携帯を覗き見るつもりはなかったのだが、ついその画面が目に入ってしまった。



“着信 木幡こはた心春こはる



「なんだ心春こはるちゃんか」



ポイッ



 琴乃ことのがその着信を無視して、再び俺の布団に潜り込んだ。


「えへへへ。この布団持って帰りたい」


 幸せそうな顔で再び眠りについてしまった。


「……」


 確かクラスで一番仲の良い友達って言ってなかったっけ……?

 娘の友達への対応に一抹いちまつの不安を感じてしまう。



プルルルルルル!!



 今度は俺の携帯が鳴った!! 


 電話には出ずに着信名だけをちらっと見てみる。



“着信 木幡こはた心春こはる



 で、出たな! 女の子大好きっ子め……。

 俺の琴乃ことのをそっちの道に歩ませるわけにはいかないからな!


 ……そうは思いつつも、琴乃ことのみたいに無視するのは可哀想なので、俺はその着信に出ることにした。

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