第6話 橋の向こう側
痛く熱を持った心を冷やすように、冷たいルイボスティーを胸の前で握りしめた。
カツンとあたる肋骨とペットボトルの丸びた角。
ひんやりと皮膚や神経に冷たさが伝う。
いくら春を目の前にしてるとはいえ、この外気の寒さに触れながら飲む冷たいルイボスティーは、まるで血の流れを止めてしまうかのように身体全体を凍させるだろうな。
でも、私に温もりなんていらないというか、そろそろ感じなくなるだろうと思う。
なんだか昨日より今日は世界が狭く見えてきた。
寒い、乏しい。
頭にそんな言葉がどんどん浮かんできちゃう。
足が重い。
次第に足は一歩を踏み出すのさえキツくなってきた。
もう半分前に倒れる力を使って歩いているみたい。
それに、あれ?
私、、、泣いてた。
いつから泣いてたんだろう。
気が付けば目頭にうるっと光が反射した。
私は涙さえも冷たくなってしまった。
一呼吸、ちゃんと息を吐いていつもの川辺に辿り着いた。
殆ど意識が無い状態でここに来れた。
そう、普段私がどれだけここに来ているか。
何もかも忘れても、親の顔よりも何よりここを思い出すんだろうな。
それってどう。悲しくない。
ここの川は広くはない。
でもとっても澄み切っている。
皆んなは汚れているとか、言うほど綺麗じゃないっていうけど、私はここより綺麗な川は無い気がする。
でも確かに別に川底が見えるわけでも、魚が泳いでいるわけでもない。
小川じゃないんだから。
だけど、このせせらぎのせいなのか、妙に心が洗われる。
澄み切ったマイナスイオンみたいな?そんなの皆んなは感じないんだろうか。
まぁいいや。
何度も手からスリ落ちそうになったペットボトルを、悴んだ手でゆっくり開けた。
「いたぁ。」
ペットボトルの蓋にさえ負けそうになる。
キリッと開いたペットボトルの口を見ると、並々に赤い液体が入っていた。
溢さないようそっと口をつけ、ひとくち。
分かりきってはいたけど、なんて冷たい味。
ようやく目頭の涙を、キャップを持った手で拭いた。
そして見えやすくなった目でいつものように川の流れを見た。
今日は穏やかだな。
私がいる側は道が綺麗に整備されているから、こうやって座れる。
けれど、この川の向こう側の道はは暫くの間通れないように、道の端に通行止めの看板の柵が置かれている。
理由は私が七歳の時の地震で地盤が崩れたから。
何故か向こう側は大きく崩れ、道がなくなり、未だに修復されていない。
ここはなかなか誰も通らない道だし、車なんて通れないような小道だけど、どうしていつまでも直さないんだろう。
心なしか向こう側は草花もこちら側より少なく感じる。
あれからもう15年も経つのに。
そして、私がいるもう少し上流には川にふさわしくない程立派な橋がかかっている。
その造りは中学の修学旅行で見た鴨川の橋に引き目を取らない程立派だ。
どうやら昔、腕のいい職人が町の人を取りまとめ作り上げた最高傑作らしい。
まるでここには合わない。
町の皆んなはあの橋を誇りに思っているが、私はトータルで見て嫌いだ。
例え橋が立派でも、渡る川は小さいし、その端の道は狭いのに何がいいんだか。
アンバランスもあったもんじゃないくらいセンスを感じない。
何に価値を見出しているのか微塵も分からないな。
まあでも、あの橋はこの町の伝統である災難祭の時、唯一川を渡る貴重な橋であることは分かっている。
あんな大きな山車を引くのだから、あれぐらいの幅の橋が必要なのは分かっているんだけど、どうもね。
なんせ、あの祭りごと私は嫌いだから。
もう二度と見たくないくらい、心臓をギュッと潰されるかのようなあんな祭り。
人なんて亡くなったのなら静かにさせておけばいいのに。
なんでわざわざ、また希望のカケラみたいなものを見せられなきゃ…。
嫌な事を考えた時だった。
「ん?」
川の向こう側に何か光った。
そう遠くないのに何かはハッキリ見えない。
普段なら気のせいかと放っておくが、やけに気を取られる。
「なに、」
向こう側に行くには、あの橋を渡るしか…。
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