転校したら、首位のチームに入れられました(ただし嫌われ者の集まりです)

サエトミユウ

1章 シャム・シェパードは語る

第1話 セントラルの学園

 澄み渡る青空、そこにそびえ立つ白と薄水色の建物を見上げた。

 セントラル総合学園。

 僕は今日からここに通う。

 いろいろな事情が重なって、この学園に転入することになったのだ。

 うまくやっていけるかは非常に不安なんだけど、がんばろう。

「よし! 僕なら出来る!」

 言い聞かせて、門を潜った。


 ――唐突に語り出すけど、僕らは【アンノウン】と呼ばれる生命体と人類が争っている。

 はるか昔、アンノウンはある日突如として出現し、暴れ回り人類を襲ったらしい。

 人類は最初恐怖し、逃げ惑い、次に戦い、次第にアンノウンとの戦闘技術を覚え、とうとう撃退に成功した。

 最終的に倒したけど……でも、それだけでは終わらず、次々とアンノウンが現れた。

 果てない戦いが続いていったんだ。

 攻防を続けているうちに人類はアンノウンが出現しない場所を割り出し、そこを拠点として防衛ラインを築いた。

 でもって、防衛ラインの内側を【セントラル】と呼び、外側を【エリア】と名付け、犯罪者等々セントラルで罪を犯した者をセントラルの外に追いやり、セントラルの治安を維持しつつアンノウンとの防衛戦を続けた。

 セントラルから追い出された者も、ただただアンノウンに蹂躙されるだけではなかった。たくましい者たちはアンノウンと戦いながらエリアで生活基盤を作り、繁殖した。

 長い年月が経ち、アンノウンは徐々に当初の発生よりも頻度が減っていき個体も弱くなり、特にセントラル付近では弱い個体が少しだけ出る程度になった。

 なので、セントラルの人間はほとんどアンノウンと戦わなくなった。


 ……なんだけど。


 アンノウンとの戦闘が始まって以降、人類はアンノウンの素材を利用することを覚えたんだ。

 アンノウンってさ、僕たち人類の上部頚椎あたりに埋め込まれているバイオネットワークのためのマイクロマシン(通称ブレイン)や、その他食料になったりエネルギーになったりと、加工次第でさまざまな物になるんだって。すごいよね。

 たぶん、当時は争いで荒廃し、狩ったアンノウンですら加工しないとどうにもならない状況だったからなのだろうけど、今はその研究開発がかなり進んで人類に必要不可欠な原料になりつつある。

 そのため、襲われる心配の無いセントラルでも、弱い個体が出没しやすいエリアにアンノウン討伐専門の戦闘部隊が狩りに出かけているんだ。


 セントラルで生まれ育った人間はエリアの現状を知らない。自分たちが脆弱な人間だってことを忘れがちで、アンノウンが脅威だということはセントラルに住む多くの人間が忘れている。だって、くどいようだけどエリアに出たことなんてないからエリアがどういうところか知らないから。


 …………なんだけど。


 エリアを知っている人間が現れたんだ。

 アッシュ・ウェスタンス教官。

 十年ちょっと前、学生の時にエリアで行われた課外授業で運悪くアンノウンに遭遇してしまって、以降行方不明になってたんだって。でも、十年後に無事に戻ってきたんだってさ。それって、恐らく僕が考えているよりもすごいことなんだろうな。


 ――なんでそんなことを話しているかって? なぜなら僕の担任がアッシュ・ウェスタンス教官になったからさ!

 いつもサングラスをかけているのは、アンノウンに襲われて失明し、人工眼にしたからだからだって噂も聞いている。

「あ、ああ、あの、よろしくお願いします! 僕はシャム・シェパードと言います!」

 噂の人物を目の当たりにした僕は、緊張してカミカミになってしまった。

 アッシュ・ウェスタンス教官は、社交的な笑みを浮かべて、

「もしかして緊張してる? よろしく、僕はアッシュ・ウェスタンス。君のクラスの担任だ」

 そう挨拶してくれた。

 そのあと、いろいろ説明された。

「空き枠からの転入だっけ?」

「ははははい、そうなんです。一度受験して見事に落ちまして……親が諦めきれなくて、空き枠が出た途端に僕に転入手続きをとらせました」

「受験も防衛特科?」

「いえ、魔術特科です。もうここに転入出来るのならどの科でも良くなったらしくて」

 この学園は【普通科】、【防衛特科】、【魔術特科】とある。

 防衛特科はセントラルの防衛やアンノウンにかかわる……いわゆる戦闘的なこと、魔術特科は魔術に関することを専門的に学ぶ。

 特に魔術特科は受験生の保有魔力量という、努力ではどうにもならない部分でも合否が決まる。

 僕は、保有魔力量には自信が無かったが、身体能力にはそこそこ自信があった。

 アッシュ・ウェスタンス教官はまたニッコリと笑う。

「そうか。魔術特科は無謀だったね」

 ハッキリと言う教官だなぁ。確かにそうだろうけど。

 僕はため息をついた。

「魔力が少ないのになんで入れようとするのか理解に苦しみます」

「そうだろうね。通常は普通科に入れるからね」

 アッシュ・ウェスタンス教官は淡々と指摘した。

 僕はチラッとアッシュ・ウェスタンス教官を盗み見た。

 背が高い。僕は背が低いので仰ぎ見る感じになる。

 服の上からでも均整の取れた身体つきなのがわかるし、サングラスをかけていてよくわからないけど、くせのある白髪とあごのラインからすると、かなりの美形なんじゃないかな? モテそう。

 アッシュ・ウェスタンス教官が気づいてまたニッコリと笑う。

「ま、君は防衛特科のほうが合っていると思うよ。身体能力がとても優れているからね。……あ、そうだ。シェパード君は防衛特科は小隊を組んで模擬戦やその他行動を共にすることを知っているかな?」

 アッシュ・ウェスタンス教官に問われた僕はうなずいた。

 ……どのチームに入れられるかすごく不安だ。

 それが顔に出てしまったのか、アッシュ・ウェスタンス教官は説明してくれた。

「君は、現在首位のチームである小隊名【ナンバー99】に所属することが決まっている。彼らも転入生だからという理由と、彼ら以外の小隊の空き枠が無かった。……あるにはあるんだけど、そういうチームって仲良しでね、編成の変更を嫌がるんだよ。君を入れたら大変なことにしかならなそうだから、編入先小隊は実質一つだけだったんだ。ナンバー99の連中ならなんとかするでしょ、ってワケ」

 僕はちょっと安心した。仲良しチームに入れられてイジメに遭うとか困る、と思っていたし。

 ホッとしたので思わず聞いてしまった。

「僕以外にも転入生がいるんですね」

「うん。彼らは君より数ヶ月ほど早かったね」

 よかった。転入生は珍しくないみたいだ。って、胸をなで下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る