第3話王宮では王妃様が来ない母を待っていて、私は母にはめられたのを知りました

カタコトカタコト、馬車は走る。

私は馬車での王都までの旅を楽しんでいた。


魔の森の植生は単調だったけれど、旅の途中では、途中に万年雪に覆われた山あり、お花畑あり、大きな街あり、大きな湖ありで、景色が変わる度に子供だった私は大声で叫んで喜んだのだ。


「ねえねえアリス、あの走っているのは何?」

「あれは鹿ですよ」

「それを追いかけている黒いのは」

「あれはヒグマです」

「あれがヒグマ、ものすごく早いじゃない! 私が狩っちゃって良い?」

「ちょっと、フラン様、止めて下さい」

私が馬車を飛び出してヒグマ狩りを始めようとするのを必死に皆で止められたりもした。


そうかと言うと、馬車に乗るのも飽きたので、騎士と騎乗を代わってもらって

「ようし、お馬さん、行くわよ」

「ちょっと姫様」

「フラン様、強化魔法かけたらダメです」

馬に乗らせてもらって遠駆けしたりして本当に楽しかった。


もっとも魔法で強化した私の馬に追いついてこられる馬なんていなかったから、途中の木の横で1時間位待つことになったけれど。


「本当にフラン様との旅は疲れました」

後で散々私の専属侍女のアリスに文句を言われたけれど、久々の旅で楽しかったんだもの。仕方がないじゃない。



そんなこんなで王都のタウンハウスについたんだけど、なんかタウンハウスは広大な敷地に立っているんだけど、とても寂れている感じだった。


「なんかお化け屋敷みたいね」

私が言うと、


「ここ数年、お館様も奥様もほとんどご利用なりませんでしたから。これからここにフラン様が住まわれるならば、整備する必要がありますね」

一緒に来た執事のクリストフが言ってくれた。


タウンハウスは大きいんだけど、今は使用人も10人もいないらしい。

今回領地から20人の騎士とともに、一部使用人も連れてきたけれど、これだけのお屋敷を維持するのも大変みたいだった。


まあ、私は基本的に自分の事は一人でできたから使用人も殆どいらなかったけれど。

それに王都にそんなに長い間いるつもりはなかったのだ。その時は……




そして、今日はお茶会当日だ。

この日までに、私は侍女長のシモーヌに礼儀作法の稽古をさせられたんだげと、まあ、つけ刃をつけた程度だった。


そして、ついに当日が来た。

私は何も考えていなかったのだ。


そう言えば母が王子様に会えるかもしれないとか言っていたけれど、別に私は王子様と特段に会いたいとは思ってもいなかったのだ。まあ、確かにこの世にいる王子様に会いたくないかと言えば会ってもいいかなくらいの感じだった。


一番の目的はお菓子、それも王宮の料理人が材料費をケチらずに作ったケーキというものを食べてみたかったのだ。

何しろこのルブラン公爵家は貧乏なのだ。子供心にも周りから散々言われているのでそれは良く判っていた。

節約節約節約で、食うものも食べるものも頬張るものも基本的に節約されているのだ。


我が家では、貧乏や節約を格好良く質素倹約、質実剛健と言い換えるのだ。

何故か耳にタコが出来るほど聞いていたので、その意味は良く判っていた。


食べ物に文句はいってはいけない。

たとえ嫌いなピーマンだと言えどものに生えている雑草よりは美味しいのだ……


「嫌い!」といった瞬間に飯抜きで外に放り出されて城の雑草を食べさせられる羽目になった私は、その意味をよく知っているのだ。


久々に綺麗な衣装に着飾られて、普通の貴族の令嬢ならばとても喜んだかもしれないが、どちらかと言うと騎士と野山を魔物狩りで駆け回っていた私は、動きにくいのでこの格好はとても嫌だった。


エクちゃんを持っていきたかったのだが、流石にシモーヌに止められて私は丸腰でお城に向かったのだ。まあ、襲撃されるなんて思ってもいなかったけれど。『魔の森』では必需品で、無いとなんか腰が寂しかった。


エリク騎士長を先頭に10騎の騎士に守られて行く白い馬車は、ルブラン公爵家の馬車としては十分だったというか、過剰戦力でないかと思ったのだが、ルブラン家の姫としては久々の登場でこうでもしないと格好がつかないのだとか。エリクに言いくるめられたけれど、別に戦場に出るのではないのだからとは思った。ラクロワ公爵家に対しての威圧行動とか言うけれど、別に10騎だろうが、一騎だろうが同じだと思うんだけど……

私一人ならばなんとでもなるのに、まあ、アリスを守るのに必要は……無いはずだ。彼女も騎士としても十分に戦力になるし。


丘の上に建つエルグランの白亜の城を見て私は驚いた。


「めちゃくちゃ大きいんじゃない。領地のお城よりも大きいわ」

私が叫ぶと


「当たり前です。一応この国の陛下の城ですから、臣下の城よりも大きくて当たり前なのです」

アリスが教えてくれた。


なるほど、我が城は国境と『魔の森』を睥睨して威圧しているのだが、この王宮は国全体を威圧して王家の威光を示しているのか、それよりもはるかに立派で大きい。


そして、馬車は王宮の正面で止まったのだ。


そして、その正面には多くの人がいるんだけど……誰を待っているんだろう?


扉が開いて、エリクが私に手を差し出してくれた。


仕方がない。普通は飛び降りるんだけど、これだけ多くの人が見ている前では、ゆったりと優雅に降りないと。


私はエリクの手を借りてゆっくりと降り立つと正面を見て、固まった。


なんとそこには王妃様が立っていたのだ。姿絵で確認したから間違いない。


ええええ! なんで?


お茶会って主催者が出迎えなくてはいけないの? そうだったらちゃんと言ってよ!


私は後ろから降りてくるシモーヌとアリスを睨むと、二人共驚いているんだけど。


仕方がない。ここは私がちゃんと挨拶しよう。



「はじめまして、王妃様。私、エルグラン公爵家の長女、フランソワーズと申します」

そして、カーテシーも一応決まった。

私はガッツポーズしたい気分だった。


「ようこそ、フランソワーズ」

王妃様はニコリと笑ってくれた。


しかし、私の後ろを気にしているんだけど、なんで?


「アンナはどうしたのかしら。『お二人でいらしてね』と招待状を送ったのだけど」

あの、鬼母! 私を人身御供にしたのね!


私は心のなかで叫びつつ、シモーヌを見る。


「申し訳ありません。妃殿下。奥様は魔物が活性化したため、どうしても領地を離れられなくなりまして」

必死にシモーヌが言い訳してくれた。


「そうなの。最近は魔物も静かになっていると聞いて誘ったのだけど、王家の調査ミスね」

王妃様は少し笑ってくれた。


いや、違う。これは完全に怒っているアレだ。


ちょっと待ってよ。私、まだ六歳なんだけど、六歳の子供を身代わりの人身御供に出すなんてどんな親なんだよ!

私は盛大に心の中で悲鳴を上げたのだ。

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『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! ~学園生活を満喫するのに忙しいです~』https://kakuyomu.jp/works/16816927863351505814


が皆様の応援のお陰様で『次にくるライトノベル大賞2023』ノミネートされました。

https://tsugirano.jp/


なんと上から五番目に載っていました(あ行だから当然なんですが)

まさか、ノミネートされるなんて思ってもいませんでした。本当にありがとうございます。

推薦して頂いた方には感謝の言葉もございません。もう気分は皆様のおかげでとてもハイです!

ここに載ることが出来るなんて夢みたいです!


そして、ここから本投票です。単行本は60冊ノミネートされていてベスト10になればデカデカと発表されます。皆々様の優しい心遣いでベストテンに入らせていただければ…………

投票して頂けたら嬉しいです!


このお話も面白くなるよう必死に書いていくのでよろしくお願いします。

本日もう一話投稿します

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