優しく、さようなら✨

一宮 沙耶

第1話 女性へ

 池袋でピストルの乾いた音が響いた。暴力団どうしの発砲だった。


 組長が車を降りた時に、対抗する組の組員が拳銃で殺害、それを契機に、15分ほどの撃ち合いとなった。これは暴力団どうしの闘争に留まらず、周りの一般市民も巻き込み、13名の死者を出す大惨事となった。


 病院では、すでに死亡した人への対処は何もできなかったけど、2人の対処に悩んでいた。1人は、脳を打たれ、脳に弾丸が残って脳死。だけど、体としては生存している15歳の女子高生。


 もう1人は、先ほどの組長の車が急スピードでバックする時に壁にぶつかり、その間に挟まれて胸から下が潰された25歳の成人男性。


 2人の両親が駆けつけ、体の一部でもいいから生き延びさせてくれと医師に強く迫った。そこで、当時は、まだ技術として確立していなかった脳移植という方法で、男性は死亡したことにし、女子高生を生かす手術をすることになった。


 脳がその人にとって最も重要な組織だということであれば、逆に女子高生はすでに死亡し、男性を生かすということになる。2人の両親は、自分に都合のいいように考え、その手術に同意し、成功を祈った。


 そして、長時間に及ぶ手術は成功し、僕の女子高生としての生活が始まった。


 ただ、脳移植はそんなに簡単なものではなかった。最近、特殊な医薬品は出ていたものの、脳の脊髄からでる神経を定着させるまでに1ヶ月かかった。最初は、何も見えないし、喋れないし、体も動かせないので、寝たきりの状態が続いた。


 そして、寝たきりで、筋肉とかが痩せ細り、立つこともできず、3ヶ月間の辛いリハビリをすることになった。また、急に女性になり、社会に溶け込めないだろうと言われ、リハビリ中は、ネットとかで、女性としての生活や、喋り方も学んだ。


 そして事件から4ヶ月経った時に、だいたい日常生活ができるだろうということで、女子高生の実家に戻り、6月から学校に復帰することになった。


 両親はとても喜んでいて、日常は女子高生の家で過ごし、週末は、成人男性の家で過ごすということ、名前は、女子高生の名前である江本 聖奈と呼ぶことで双方が合意した。こうして、私の第二の人生が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る