第44話『巫女のお仕事』


(暑い……あついぃぃぃぃ。メイクがあぁぁぁ)


 中間世界が陽の光を取り戻したあと、現世の世界でも変化がありました。立ち入り禁止だった吉備の神社はリニューアルオープン。新しいお土産コーナーや、美味しそうな香りが漂う屋台も新設されて、毎日が大忙しであります。

 肌が焼けるような真夏の日射しに、日焼けしちゃいそうで。それでも私、頑張ります!

 

「弥生、そろそろ交代の時間よ」

「あ、はい! じゃあお願いします!」


 神社の祈願受付けをしていた私は、紗雪さんと交代しました。周囲には人がいっぱいで、ガヤガヤしてます。特に白い葉を持つ立派な神木は、この神社の名物スポットで、カシャカシャとカメラのシャッター音が忙しく鳴っております。

 近くを通ったら、外人さんに声をかけられました。


「オウ、コウハクのミコサーンデスね? ミヤ〜ゲは、ドコカでアリマスカ?」

「あ、お土産でしたら――――」


 人混みの中を縫うように移動して、お土産コーナーの前までいったら、ゆり子さんがいました。


「ちょっとおねえさん! この肌に塗るお守りなんだけど、不思議なご利益があるってのは本当なの?」

「そうなんですよ〜。わたしはコレのおかげで、肌がピチピチになったんですよ? ふふふ。今なら特別に、コチラもサービスでおつけしますよ~」

「あらやだ、買おうかしら!!」


 満面の笑顔、美人さんパワーで、お客さんと接客してます。やっぱり美人すぎぃぃぃ!


「アガトサン、オススメまんじゅうアリマスカ?」

「どら焼きですけど、これがオススメです! ほっぺたおちるくらい美味しいです!」

「ホッペタ? ワォ、イタダキマンモス!」


 亮介さんが作ったどら焼きを渡して、外人さんはめっちゃ喜んでます!

 回廊へと向かう途中、本殿では演舞を舞う、銀白色の髪を結んだ覆面の男性。みんなその神々しさに夢中ですぅ!

 そのまま回廊を通って、真っ直ぐ進んでいくと―――あ、グラマラスなお姉様だ。イケメンな周さんもいる!


「おーい弥生ちゃん。繁盛してるねぇ~あたいも暇なんだ、何か手伝うかい?」

「僕も手伝いますよ!」

「あ、じゃあお姉様は祈願受付けをお願いします! 周さんは屋台で焼きオニギリを出してる、亮介さんの手伝いをお願いします!」

「わかったよ、あたいに任せなぁ!」

「変なお客さんがいても、笑顔ですよ、静香?」

「あはは、お願いします!」


 2人にお手伝いを頼んだら、そのまま、なが〜い回廊を進んでいきます。わぉ、大人気。

 倉庫が隅にある広場では、大勢のお客さんに囲まれている、白いシカさんたちがいます。観光客の人から貰ったお煎餅を、モシャモシャと食べてます!

 脳裏にシカさんの声が響いてきました。


《モグモグ……お、おなかいっぱいでゴザイマス……》

《だめだよお姉ちゃん、頑張って食べないと!!》

《…………スヤスヤできない……眠い》


 そっちにエールを送って、弓道場へいざゆかん!


(頑張ってください、サンジョさま!)


 そのまま回廊を突っ切って、弓道場へと向かいます。おっと、その前に着替えなきゃ。弓道場の横にある建物に入って〜。あったあった!


 白い弓道衣。黒い袴。黒い帯。白い足袋。

 袴の後ろにある赤い刺繍には、朝倉弥生。


「えーと、ここをこうして〜」


 巫女服を脱いで、下着姿になりまして〜。白い弓道衣を羽織る。うーん、いい香り。

 帯をお腹に巻いて、キュキュっと絞ります。そこに黒い袴をはいて〜足元がスースして、やっぱり巫女服よりこっちのが涼し〜。

 着付けをして、足袋を履いて〜。

 

「よし! 完了!」


 大きな鏡の前で最終チェック、メイクは大丈夫そうだね。クルンと周って、お姫様〜。あはは。そしたら玄関に置いてある草履を履いてと。

 まずは的場に向かって、安土に水をまいてからの〜。丸い霞的を設置します。木の串を2本使って、的を固定します。


「うん。これでオッケー!」


 的を設置したら〜看的小屋をくぐって、そのままジャリジャリと音を鳴らして弓道場へ向かいま〜す。

 藁の塊、巻藁が置いてある入口を横切って、いざ弓道場へ。隣接している廊下を横切り、射場に入ったら神棚にゆう

 道場の雨戸をガラガラと開けて〜。うわぁ、眩しい太陽。ポカポカいい天気!


「えーと、私の弓は〜、あった! 15のシール!」


 弓に弦を張って、専用の定規で高さを確認。うん、バッチリ!

 矢筒を持ってきて矢立箱にうつしまーす。空の筒は専用の押入れに収納してと。

 そしたら正座をして〜乾燥剤のはいったタッパーを開けてと。白い布、下がけをつけて、茶色いかけをはめます。

 ポワっと温かい気持ち。うーん、ワクワク。

 弽をつけたら、タッパーも押入れにしまってと。よし!


 弦の張ってある和弓と矢を4本握り持って、控える場所である廊下へと移動します。射場から出る直前に立ち止まり、揖。

 私は廊下にあるパイプ椅子へと腰掛けた。


「うーん、緊張するな~。でも、大丈夫、自分を信じて」


 すると、神社内にアナウンスが流れました。

 

《こほん。わたくし〜……星城がご案内いたします。これより〜吉備の神社、弓道場にて射芸しゃげいを行いますわ。是非とも〜ご鑑賞くださいませ〜。ですわ!》


 そのアナウンスのあと、ゾロゾロと集まってきた人達。弓道場の矢取り道と、ここから見える回廊が、人で埋め尽くされました。うひゃ〜もう緊張してきて、胸はバクバクです。

 私はゆっくりと椅子から立ち上がると、射場の入口前で待機した。


《今回の射手は〜朝倉あさくら 弥生やよい。流派〜斜面打起しによる〜坐射ざしゃでございます〜。どうか〜射手の想いがこもったしゃを〜ご期待くださいませ〜〜》


(えぇ!? 麻里奈さん、ちょっとアドリブ入ってるうぅぅぅ!!)


 すごい緊張するけど、でも大丈夫。私、弓道が大好きだから。この気持ちを、みんなに見てもらうんだ!


 私は両手を腰に添え、執弓とりゆみの姿勢となる。

 射場へと入ると、神棚に浅い礼をした。

 



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