退魔の射手 〜かぐらの巫女〜

もっこす

第一章 決意

神社に就職であります!

第1話

 そのとき――生まれて初めて一目惚れをした。


――カシュンッ


 聴くたびに惹きつけられる、高らかな音色が鳴って。


――――――パァ――ン


 張り詰めた空気が破裂するようなその音が鳴る。


(なにコレ……めっちゃカッコいい……)


 冷静さを失うくらい、美しくて―――心がぐいぐい引っ張られて。


 弓から放たれたその一線は、まるで曇った空を切り裂くように飛んでゆく。それがたまらなくカッコよくて。丸い的にあたった時の音を聴くと、飛び跳ねたくなるくらいワクワクして。


(やりたい! 私もやりたい!!)


 周りの景色なんて、視えなくなるくらいに熱中してる。それくらい魅入ってるんだ。わかる、わかるよ。

 だってさ、あの人が弓を引く姿に、引き込まれてるんだもん。テレビとかで見たことはあったけど、映像とは全然違うよ。ここが弓道場なんだ。あれが袴なんだ。

 

(うわぁ〜。これが弓道なんだ! あれ……あの人いま、こっちみた?)


 その人は白い弓道衣に黒の袴姿で、背中まで垂れてるキツネ色黄褐色のポニーテールだ。髪は黒色じゃないのに、すっごい引き締まってる雰囲気。そして私のほうを見て、ニッコリ微笑んだ。


(び……美人すぎぃ!)


 その人は弓を左斜め前に構えると、的に顔をむけ、両手で弓を持ち上げた。

 左手は真っ直ぐ伸びたまま、そこから弓を引いて、右頬に矢を添える。

 静止しているはずなのに、ジリジリとした力強さを感じてる。

 やがて、弦を引っ張っていた右手が勢いよく動いた。


――カシュンッ――――――パァンッ!!


 風をきって、的を貫く。


「か、かっこいい……」


 思わずボソッと声がでちゃった。邪魔だとか思われちゃったかな……どうなんだろ。

 あ、でもちょっと分からないことがある。あの人が右手にしてる、茶色いグローブみたいなものが、カシュって音を鳴らしているのかな? 

 それにテレビで見た事がある弓道と、弓の構え方が違うんだよね。あんなふうに弓を斜めに構えてなんか……確かテレビではボールを抱えたような姿勢から、弓を持ち上げてた気がするんだけどな~。


(なんで弓の構え方が違うんだろ。あの人しか出来ない、特別な引き方なのかな?)


 その時だった。私の後ろから、地面に敷き詰められた砂利が鳴る音がした。後ろを振り向いたとき、そこにいた短髪の男の人は紫色の袴姿。しかもちょっと老けてるし、それになんだか気難しい顔してる。


「フン……おいそこの黒髪ショートの小娘。この神社に不法侵入とは、いい度胸してるな。覚悟は出来てんだろうな?」

「え……ええええぇぇぇぇ!?」


 私はその時思った。これがもし、運命であり出会であるなら。

 神様っているのかなって。だってさ、超ピンチじゃない?

 


 ***



 それは神様による導きなのか。

 もしくは偶然によるものなのか。

 それを知るすべは、さだかではない。

 しかし、例外もしかりである。


 それは――その少女が〝弓〟に恋をしたという、事実である。

 


 




 

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