第4話 鉄腕の子犬(4)

「うそっ!?」

 敵のギア・ボディは全滅させたし、周囲に生体反応もなかったはず。もしかして設置式のトラップか? それとも脱出が間に合っていた敵パイロットの悪あがき?

 混乱の中にありながらも、咄嗟に回避行動を取ろうとペダルを踏むクウ。しかし、排熱の終わっていない<ディノブレイダー>は彼女の操作について来れない。

 一瞬遅れる反応。

 その隙をつき、ミサイルがゆっくりとクウのいるコクピット部分へ吸い込まれていく。

「あ、やだ……」

 避けられぬ死を前にし、彼女は無意識に呟いていた。

「わたし、まだ、」

 ミサイルが炸裂し、眩い閃光と破壊の爆風が放たれる。

 しかし、想像していた衝撃は訪れなかった。

「……え?」

 ゆっくりと瞼を開けたクウは、目の前に広がる光景に目を見張る。

 そこには、はるか後方に置き去りにしていたはずの<ハンター>の背中があった。

 両肩のエネルギーフィールド発生装置が赤く発光しているところから見て、バーニアで咄嗟にクウの元へ駆け寄り、バリアを展開して守ってくれたということなのだろう。

 クウはもちろん、<ディノブレイダー>にも傷一つついていなかった。

「生き、てる……」

 数秒遅れて実感が追いつき、クウの全身が震えた。

 全身から汗が吹き出し、一気に脱力する。

『大丈夫か?』

「え? あ、うん、平気……」

 差し伸べられた<ハンター>の手を取り、体勢を整える<ディノブレイダー>。

 先ほどまでの蛮勇や油断を怒られると思っていたクウは、少し拍子抜けしながらも、言いそびれていた感謝の言葉を口にしようとして、

 そこで、コトーの様子がおかしいことに気がついた。

『今のは、いや、そんなはず……』

「……おじさん?」

『まさか……、まさか、こんな場所で……』

 通信から聞こえてくるうわ言のようなコトーに言葉に、クウは首をかしげる。

「おじさん、何を言って……」

『無事か、子犬ちゃん!』 

 クウの言葉を遮るように通信が入る。

 それは戦闘に巻き込まれないよう距離を取っていた輸送ヘリと、それをカバーしていた僚機のバーグラリーからのものだった。

 通信ウィンドウに映る仲間達の顔は本気で彼女のことを心配しており、自らの軽挙を恥じたクウは気まずそうにおでこをかく。

 そんな彼女の無事を確認したバーグラリーの男が、ほっと息を吐き苦笑したところで、


『歯車に安堵はいらない』


 突然、オープンチャンネルで通信が入り、かん高い男の声がコクピット内に響き渡った。

 あまりに脈絡がないその言葉に、クウたちの思考が一瞬止まり、

『全方位警戒ッ!!』

 様子のおかしかったコトーが、突然これまで出したことのない大声で叫んだ。

『奴だッ! この場所はまずい、早くここから……!』

『いきなりどうした?』

 ただ事ではないコトーの様子に、戸惑いを隠せない僚機。

 そんな彼の動揺が操縦桿に伝わったのか、一瞬彼のギア・ボディの動きが鈍り、

 次の瞬間、

「え?」

 離れた場所から僚機を眺めていたクウは、その光景に我が目を疑った。

 例えるならそれは、巣を突かれて怒るスズメバチ。周囲の廃ビルから黒くて小さい何かが大量に湧き出し、群れをなして僚機の頭上に飛び掛かる。

『は?』

 その黒い群体の一つ一つが、ついさっきクウを襲った小型のミサイルであることに気づいたのは、僚機の機体が爆散して吹き飛んで行くのを見た後だった。

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