依頼をして、解体を習ってみたり ①
キィと、扉が開く音がする。
……俺は冒険者ギルドにいざ、足を踏み入れてみた。
正直緊張している。
どうやら酒場と依頼をするカウンターが隣接して存在しているみたいだ。
今は昼間の時間帯だけど、早速お酒を飲んでいる屈強な見た目の冒険者たちの姿見える。
俺なんかよりも背が高くて、力が強そうで……ちょっと怖い。あ、でも俺は魔法が使えるからああいう冒険者相手でも戦えるものなのだろうか?
でも出来れば人とは戦いたくないなぁ。
この世界の倫理観でいうと、殺されかけることはそれなりにあるっぽい。それに対して正当防衛することは、許されていることでもある。
特に旅人は命の危険が多い。盗賊などもいて、大変な世界なのだ。
人の命が軽くて、知人が死ぬこともよくあるらしい。……母さんは俺を蘇生させることなんて簡単だと言う風に言っていたけれど、それは本来なら人の範疇を超えた力。人は死んだら、そのままだというのが当たり前のこと。
……本当に母さんは、規格外なんだなと思った。
俺がカウンターに近づくと、「冒険者登録ですか?」と聞かれる。それに首を振ると、不思議そうな顔をされる。……俺の年代だと依頼者よりも、冒険者登録する方が多いのかもしれない。
やっぱり皆英雄に憧れるものなのか、冒険者を志す若者は大変多いらしい。
受付のお姉さん曰く、若者が英雄に憧れ冒険者になり、そして難易度の高い依頼を受け、死に至るというのはそれなりによくある話らしい。
英雄と呼ばれるほどに特別で、この世界に名を刻む存在。
それが簡単に世の中に現れるわけではなく、そういうものにすぐになれるわけでもない。
だけど自分は英雄になるんだと夢見て、命を落とす人は後を絶たないらしい。
……命は大事にするべきだと、俺はそう思うけれど。まぁ、地球育ちの俺と異世界で生きてきた人たちでは感覚が違うのだろう。
「冒険者にはなる予定は今の所ないですが、これからのために解体は覚えたいので魔物の解体を教えて欲しいと言う依頼を出したいです」
「かしこまりした。予算はいかがなさいますか?」
そう問いかけられて、受付のお姉さんと相談しながら決めた。
最初、かなり多めに依頼料金を設定しようとしたら止められた。なんだか、それだけお金を持っていると悟られると狙われやすいそうだ。お姉さんは良い人で、俺が出したお金をさっとしまってくれた。それでいて周りにばれないように話をしてくれた。
……俺は、ちょっと平和ボケしているのかなと思った。
この世界が今まで住んでいた場所よりも、ずっと危険なのは知っている。母さんが与えてくれた知識の中でもそういう危険は伝えられている。自分では注意しているつもりでも、良かれと思ってやろうとしたことでも――違う結果につながることってきっとあるのだ。
だから、俺はもっと気を引き締めないといけない。
依頼料金は結局、通常より少し上乗せ程度。頑張って支払いましたと思われるぐらいの感覚のお金。なんとも絶妙なバランスだと思う。
依頼をした後は、俺は街を見て回る。
人気のないエリアを探索しようとしたら、止められた。
人の目がないエリアだと、大きい街では犯罪者が潜んでいる可能性もあるんだとか。
俺はどうやら周りから見て、弱そうに見えるようだ。ガタイが良い方ではないし、この世界の基準でいうと背も低いしなぁ……。そんな俺が一人でのほほんと人のいない場所を歩いていると危険だと言われた。
まだ大通りしか探索していなかったから、そうなんだと言う感想である。
俺がもっとこの世界に慣れて、一人でもそういう場所にいっても対処できるようにならない限りは行かないようにしよう。多分他の、どんなに平穏に見える場所でもきっとそうなんだろう。そういうわけで俺が歩いているのは大通りばかりである。
ちなみに女性だとこの世界は男性より危険が多いようだ。
女性の旅人や冒険者は大抵は誰かと一緒に行動することが多いのも、そのあたりが関係しているらしい。だから一人で旅をする女性は少ないんだとか。
歩いていると、神殿に向かう人の数がそれはもう多い。
神様と言う存在が身近であるからこそ、余計に祈りを捧げる人は沢山いるらしい。俺は母さんは神だけど、神様が実際どういうものなのかは分かっていない。
やっぱり信仰心などによって何かが変わるとかあるんだろか?
今度の家族会議の時にそのあたりも聞いてみようかな。
そんなこんな考えながら街の中を歩き回った。
まだこの街にきて数日だけど、顔見知りは少しずつ増えた。定住するつもりはないけれど、こうやって少しずつ顔見知りが増えてくるといいことだなと思う。
何気ない会話の中で、この世界のことが分かったりするし。
俺は知識をもらっていてもこの世界を正しく知っているわけではないからなぁ。
それから宿に戻って、一夜を過ごす。冒険者ギルドから依頼を受けてくれる冒険者が見つかったと連絡が来たのはそれから四日後のことだった。
その間、俺は一人で魔法や剣の練習をしたり、街を歩き回ったりと充実した日々を過ごしていた
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