ダークファンタジー 廃都ガルガディア

甘宮 橙

序章

「父上!母上!どこですか?」


 業火によって崩れゆく屋敷の中を、少年は必至に両親の名を叫びながら探し回る。        

 高熱で呼吸が苦しくなっているが、そんなことを気にしている余裕はない。


 ゴゴゴゴゴ……


 地鳴りのような音が響き、目の前の壁が轟音とともに崩れ落ちた。

 崩れた壁穴の先に父の姿を見つけた少年は急いで駆け寄る。どうやら父親は、大きな瓦礫に挟まれて身動きが取れないようだ。


「父上!」

「……おお、レーヴェンか? この国に戻ったのか?」

「待っていて下さい父上。今、これをどかします」


 少年は小さな体で大きな瓦礫に挑むが動く気配すらない。


「無駄だ。私はこうなる前にもう致命傷を負っている。」


 父は荒い呼吸を繰り返しながら懸命に声を振り絞る。


「母上は?」

「……暴漢に襲われる前に自ら命を断ったよ。貴族の妻として見事な最後であった」

「何が? 何があったのです?」

「クーデターだ。隣国と通じておった大臣の手によって国王が殺され、革命が起こった。市民は暴徒になり、貴族邸を中心に略奪を繰り返している。この国はもう終わりだ」

「しかしなぜ?父上は戦場では誰よりも勇敢に剣を振るって国を守り、母上は慈愛の心で戦争孤児を助ける活動をしていたはず。贅沢三昧の他の貴族連中とは違います」

「もはや大義など関係ないのだ。暴力で欲しい物が手に入る。その感覚に溺れ、暴れているだけ。不穏な動きは予想していた。だからお前を留学に出していたのだ。だが、最後に息子の顔が見れてよかった……」


 父の呼吸は更に荒くなる。もう長くはないようだ。


「さあいけレーヴェンよ。この国を離れるのだ」


 少年は涙を流しながらかぶりを振る。


「共に参ります。私も父上、母上と一緒に」

「……アラハルトの血を絶やすな。どこか遠い土地で幸せに暮らすのだ…………」


 父の身体が力なく崩れ落ちる。屋敷の火はいっそう勢いを増し、周囲を炎が包み込む。


「絶対に……絶対に許さない。必ずこの国の奴らに復讐をする!」


 崩れゆく屋敷の中で少年の慟哭が響いた。

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