第10話 部長の過去にあった話 その1

「高田部長、そう言えば、過去に色々会社勤めた様ですが、その会社はどんな所でした?」と休憩時間中、咲ちゃんが聞いてきた。


「まぁ・・・一言でいえばブラックだね」


「・・・もしかして全部ですか?」


「ああ、残念な事に全部だが・・・」


流石に部屋の中が一瞬沈黙する。


「部長、どうせ数件ぐらいですよね?」と部下の高谷が聞いてきた。


「う~ん、バイトや派遣など細かいの含めたら20社を超えるぞ」


高谷が気まずそうな顔をする・・・そして、咲ちゃんが驚いた顔をして聞いてきた。


「部長が前の会社で経験した違反はなんですか?」


「前の会社はすごかったぞ! あまり詳しく言いたくないが、強引な配置転換や給料を強制的に減らしたりピンハネしたり、パワハラ、アルハラ、違法な業務作業の強要、違法残業、叩けばいくらでも出てくる。」


「・・・凄いですね、その会社は今でも有るのですか?」


「いや、内部告発で行政が入って営業停止処分をくらい、そして信用が無くなり、他の会社に吸収合併されたが、その会社を吸収した後、業績が著しく悪化し倒産したな・・・まあ、ブラック社員のたまり場みたいな会社を吸収したら『腐ったミカン効果』で吸収した会社まで、悪化するのは分かっていたと思うが・・・その会社も自浄作用が全然無いしな・・・最後は反社会勢力が混じって傷害事件などが発生、信用が無くなり倒産した、まぁ、当然の結果だろう・・・そんな会社を食い物にする会社も当然有るのだが」


「なんか、凄まじい会社の終わり方ですね・・・まるで蟲毒みたいです。」


「まぁ、世の中ってそんなものよ・・・まあ、大なり小なり、どの会社もブラックな所は有ると思った方が無難だね、まったく無い方がレアだ」


「その内容漏らした方の守秘義務違反は?」と高谷が言ってきた。


「ならんよ!マスコミでなく行政にタレコミしたんだから!なにせ俺が不正行為を労基に内部告発して、止めに訴訟を起こして裁判で不正行為の内容を全部ぶちまけたんだ、裁判で全て認められて、公然の事実となっているから大丈夫だ!」


「部長本人が内部告発者ですか・・・だから、この部署を作ってそこに放り込まれたわけですね?」


「失礼な事言うなぁ・・・本当にそうだったら、他の部署の監査はやらんし安月給だろ!」


「安月給でない? では、人を退職に追い詰めて儲けたと言うのですか?」


「いいか、ブラック企業でも例外が有る・・・労働に対する適正な給料と程よい労働環境、そして自浄効果のある会社なら、下手にホワイト企業って騒いでいる会社より数倍マシだ! ここの会社は、働けば働くほど金になる・・・グダグダ言って仕事しない奴がいたが、あれは例外中の例外のブラック社員と言う者だ! 結局、何の為に会社に来ていると思ってるんだ? 金儲けの為だろ! 我々はボランティア団体ではない」


「それでは、ブラック企業を肯定するのですか?」


「する訳ないだろ! マシなだけだ・・・法律は守るに越した事はない、自浄効果のある会社なら、その内ホワイト化して行くだろ?」


「あのぉ・・・私、この部署来てから給料倍になってますが・・・」と言う咲ちゃん。


それを聞いて、引きつった顔になる高谷・・・。


「珍しいんだぞ、働いて結果出た分だけ金になる会社は・・・あと、ここの部署だと上司に正論言って給料減る事無いし・・・酷い所だと、追い込み部屋に飛ばされて、減給など普通に有るしな、他の会社の求人の口コミ見てみろ、沢山働いても給料が一向に上がらない会社なんて、そこいらじゅうにあるぞ」


「まあ、給料がそれならいいですが・・・ですが、他のの部署から、ここは追い込み部屋と言われておりますが?」と口ごもる高谷。


「一応、ここ・・・社長直轄の部署だぞ」


「その様ですが・・・実質追い込み部屋状態です」


「ここが嫌なら辞めれば良いと思うし、他に良い所が有れば転職したら解決だろ?」


「止めないのですね?」


「止める理由が無いし、逆に無理やり止めると法律違反だぞ、正社員の場合は・・・まあ、俺は、過去に退職届を突き返された事は有るけどな、他の会社で」


「・・・契約社員や派遣社員は?」


「やむを得ない事情が有れば可能だぞ! 例えば、会社側の法令違反により、労働者が、生命や身体に危険な害をおよぼす行為、簡単に言うと刑事事件をしたとか、会社側の契約の不履行で被害を被った、これは大抵は給料の未払いが該当するかな・・・他にもあるけど、代表的なものはこれかな? 過去にこれで退職した事が有るけどな」


「へぇー、ならバックレ退職は?」


「それ、かなりヤバいパターンね、状況によっては多額の損害賠償請求が退職者にくるから止めた方がいい」


「例えば?」


「退職の申告もせず、無断で居なくなったら、無断欠席になるだろ? そうなったら会社が損害を被る訳だ、もしバックレた方の業務が、他の方が代行出来ない業務だった場合、被害がさらに増す可能性が有るだろ・・・判例では、そこも含めて損害賠償が認められている場合があるので、正しい手順で退職しないとシャレにならんから、気を付けてくれ」


「バックレやったんですか?」


「俺はやってないが、元同僚がやった・・・守秘義務に引っかかるから詳しくは言わんぞ!」


「そうですか・・・少し気になりますが、了解しました」




あのバックレた同僚は、今は何やっているのだろうか?


ブラック企業でバックレたい気持ちも分からなくもないが、最低限、労働者として責任ある行動は必要だろう・・・。


残念だが、他社、他人となった者の責任無い行動に対し、かまってやれるほどの余裕は無い。


輩が無理に関係性を持とうとして、害を及ぼすなら、法的手段等を用いた対抗策をこうじる講じるだろう。


宗教絡みは別として、普通、家庭を持った社会人はそんなものだ・・・。

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