第3話 まずは進路変更。チェンジ! チェンジ! チェンジ!

「お姉様! お姉様! ああどうしましょう」


 気がつくとジーナちゃんが泣いていた。

 ガーン。

 私ってば、お姉様失格だわ。ごめんなさい。


「ごめんなさい。また心配させちゃって。さっきのでコツは掴んだから大丈夫よ」


 嘘だけど。


「本当ですか? 思い出されたのですね」

「うん。いきなり大きな魔法を使おうとして、無茶しすぎたみたい」


 嘘だけど。


「なんだ。そうだったのですね。よかったー」

「あはははは」


 自主練あるのみだわ。






 家に戻ってジーナちゃんにしっかり口止めをすると、自室に引きこもった。

 家族も使用人も、私が食事以外は部屋から出てこないことに慣れてくれたみたいで助かる。

 夕食までの間、一人で考えをまとめるには好都合だ。



 当面の目的ははっきりしている。死亡フラグを潰すこと!

 そのためには、とにかく覚えている限りのストーリーからすることだ。

 となると、最初のイベントである、「聖女学園に入学」を回避しなくっちゃ。


 入学したら最後、もう、女同士のマウント合戦でもみくちゃにされそうだし。

 使い捨てられるモブ道まっしぐらだ。





 このゲーム世界では、十五歳になった貴族令嬢なら王立聖女学園に、令息なら王立士官学園に入学する。

 聖女学園には貴族の令嬢しか入学できないけれど、今回、このゲームのヒロイン、ナタリアは、平民なのに特例として編入を許される。

 だから彼女への風当たりが強いのだ。


 それに引き換え士官学園の方は、平民でも入学できる。

 こっちは魔力が激弱でも腕っぷしが強ければ入学できる。

 まあ、騎士団の団長や隊長といった士官になる有力貴族と、一兵卒にしかなれない平民との違いはあるけれど。



「あっ!」


 閃いた!!

 士官学園には、女性も入学できるんだった。だって、ナタリアは最初に士官学園に入学するんだもの!

 その後、強大な魔力を持っていることが知られて(なおかつ、美貌やら性格やらといったヒロイン力で)、聖女学園へ編入したんだった。

 うん。確かそうだった気がする。


 ナタリアは、自分の運命を切り開くために、騎士になって身を立てようと考えていたんだよね。

 ……泣ける。


 ああそういえば、確か、騎士の中にも攻略対象がいたはず。

 ナタリアが入学早々、お目当ての騎士とカップルになってハッピーエンドを迎えたら、それで「Fin」。

 物語は結末を迎えて、カッサンドラは自由に生きていけるんじゃない?


 ……なんて。そうそう、うまくはいかないか。

 それなりの数のイベントをこなしつつ好感度を上げていくんだもんね。

 ……はあ。





 ……とにかく。聖女学園に入学したら最後、いいようにダフネに使われることになる。


 カッサンドラは、ナタリアに罪をなすりつけるために、毒入りチョコを王子に届けたところに、ナタリアより先に騎士が割って入ってきて、彼女の仕業と特定した結果、死罪となる。


 確か、そんな感じだった。

 ああ、どうしよう。肝心なところが、めっちゃうろ覚えだわ。



 でも道は決まった。

 私は、士官学園に入学しよう。そして、最初からナタリアの友達になるのだ。ふっふん。

 要は、勝ち馬に乗るってこと。


 ナタリアに味方して、ダフネを懲らしめてやるのだ。ふふふ。


 我ながらいい案だと思う。私、剣道有段者ですから。

 剣を振るう方が性に合っているし、この世界で能力を発揮できるかも。

 士官学園には女性が少ないし、何より私を死に追いやるダフネの計画に巻き込まれないで済む!


 決まりね!!





 善は急げと、早速、夕食の席で、士官学園への入学について話すことにした。


「お父様。来月に迫った入学ですけど、私、やっぱり――」


「カッサンドラ。そんなに心配しなくても大丈夫よ。何も魔法の授業ばかりじゃないんだから」


 あー。カッサンドラの母親って、ほんと、「お母さん」って感じ。

 こんな風に優しく微笑みかけられると、心がじんわり温かくなる。


「あ。違うのです。お母様。私、実は、王立士官学園に入学したいと思いまして」


「なんですってっ!?」

「お、お姉様!」

「カッサンドラ――」



 えっと。えっと。ええ? そんな、三人とも、ちょっと落ち着いて。

 ああもう。ジーナちゃんたら、涙がどんどん溜まっていっている。



「こんな直前になって我が儘を言うなんて、本当に申し訳ないと思います。でも。私の魔力は判定通り最低ランクですから。同じできないのなら、剣術をやってみたいなーなんて。ええと。魔法も剣術も一から学ぶことになるのなら、やったことのない剣術の方が、伸び代があるかもしれないと……」


「カッサンドラ。そんな。ううっ。うっ。うっ」


 うわっ。母親を泣かせてしまった。どうしよう。私もなんだか泣きたくなってきた。


「あなた。まさか家のことを心配して? あなたが気に病むことじゃないのよ」

「そうだとも。その。あれだ。入学準備なら、ちょうど来週から取り掛かろうと思っていたところだ」


 ……ん? もしかして。

 聖女学園って、いかにもお金持ちのお嬢様学校っていう響きだけど、寄付金やら何やら、入学前に相当お金がかかるんじゃない?

 士官学園は平民でも入学できるんだから、初期費用が段違いってことね。



「お父様。お母様。これは、私が自分の将来をよくよく考えて出した結論なのです。できれば応援していただきたいのですが」




 その後、両親は少しだけ揉めていたが、最終的には私の気持ちを第一に、ということで許可してもらえた。

 やったー!!

 にょこっと頭を出した死亡フラグを、思いっきり叩いてやった気分!!



「でも大丈夫なの? 士官になれるのは上級貴族の中でも一握りよ」


 うーん。でしょうね。


「ま、まあ。でもやってみないとわかりませんし。頑張ります!」


 両親にしてみたら、世間知らずな娘が無茶を言っていると思うよね。許してください。



「お姉様。私は応援します。万が一、お姉様が騎士になれなかった時は、私が仕送りできるくらい裕福な家に嫁ぎますから」


 ジーナちゃん!!

 なんて姉思いのいい子なの!!


 でも心配しないで。私、剣を持てばきっと、モブじゃなくなるはずだから。

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