20世紀の映画たち

千葉和彦

第一夜 さよならジュピターの未来図

『緯度0大作戦』1969年/東宝=ドン・シャープ

監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:関沢新一、テッド・シャードマン

『さよならジュピター』1984年/東宝映画=イオ

総監督・原作・脚本:小松左京 監督:橋本幸治 特技監督:川北紘一


 庵野秀明総監督の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年/東宝=東映)が公開され、挿入歌として「VOYAGER 日付のない墓標」が注目された。

 「VOYAGER 日付のない墓標」は、もともと『さよならジュピター』の主題歌であることが認識され、『さよならジュピター』を知らなかった世代にも話題が広がっていったのだ。

 庵野監督の同志である樋口真嗣監督が、小松左京のファンジン「小松左京マガジン」で活躍していたことは言うまでもない。

 ここで夢想家は夢を見る。庵野、樋口の両監督は、『さよならジュピター』のリメイクを考えているかもしれないと。

 だが、今の邦画界では障壁が多すぎる。多国籍の俳優陣が、自分たちの要求に応じるだけの力量を備えているかどうか? 


 顧みてみよう。『緯度0大作戦』は、ジョセフ・コットン、シーザー・ロメロら俳優陣の演技を本多猪四郎監督が指導して、本編の現場では危ういことはなかった。監督助手の橋本幸治もカメラマン役の岡田真澄も、現場では危ない目には遭っていない。

 一方、プロデューサー側では、アテにしていたアメリカの合作先が破綻するなど大わらわであった。これにより海外セールスを前提とした映画作りは見直された。


 その15年後、『さよならジュピター』も企画当初では、森谷司郎監督の登板も、海外スターの出演も考えられていたが、いずれも断念され製作費も絞られている。

 その結果はどうだろう? 外国人役の役者は素人ばかり、監督になった橋本幸治も、岡田真澄も素人の演技には目を瞑るしかなかったろうと思う。

 川北紘一率いる特技チームが、円谷英二の衣鉢を継ごうとも、所詮どうにもならないのだ。


 庵野秀明も樋口真嗣も、そのことは承知している。『さよならジュピター』の実写新作でのリク―プは、2020年代の今日も厚い壁に阻まれ、無理と分かっているのだ。そこで、せめてもの餞と「VOÝAGER 日付のない墓標」を流したのではないかと思われる。

 ただ、一点突破の道は、まだ残っている。東宝内部でもそのことは検討されたはずだ。アニメーションではどうだろうか? 『さよならジュピター』の世界をアニメで構築するとき、日本語を操る声優陣の力量など、誰も心配していなかったのだ。


 あの『シン・ゴジラ』のあと、アニメ『ゴジラS.P シンギュラポイント』へと成功したリレーを見習うことはできるはずだ。

 そう、『さよならジュピター』のアニメ版の製作を考えるところから、すべては始まるかもしれない。この場合、庵野、樋口コンビが参画するかどうかは必須条件の枠外になる。

 いや、これも夢物語かもしれない。しかし、検討の余地はまだ残っている。そのことは忘れないでほしい。

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