第14話  夢の中 悪夢という過去

「どうしてこんな子になっちゃったのかしら」


「お母さんごめんなさい」


すみません 、反省しています。

入学そうそう学校からの呼び出しは相当なことだ。

食事の中断を挟んでお説教は再開された。


「とにかく今後は節度あるおつきあいをしなさい。意味はわかるでしょ」


「わかります。気をつけます」


「でもまあ、あなたも大人に近づいたってことよね。お母さんも年を取ったってことかあ」


お母さん十分若いです。


食後にコーヒーを飲みながら、それで悠くんのどこが良いのと聞いてきた。


いくつになっても女子は恋バナ好きですね。


「うーん、どこだろう。気がついたときにはもう好きだった。


一緒にいるのが当たり前過ぎて好きっていう必要がないほどに


「だから。けじめのために今日は告白したの」


「プロポーズでしょ」


はいそうでした。


「若いうちに1人に縛ることもないけど」


「でも!」


「まあ、聞いて」


「言葉にしないと伝わらないこともある。しなくても伝わることもある。


「つまり正解は無いってこと」


「その時選んだことが正解なんだから」


あの時私はえらんだだろうか

自分では選ばないで

ただ周りに流されて

修正するチャンスをことごとく見逃してしまった。


「信じてお母さん」


私は選ぶ

どんな過酷なことが起きても

その時の最適解を

選んで見せる




夕食後の説教も終わり、お風呂に入った後

その日は1人で眠った。


彼に会えた


私の願いは既にかなっていた。


「もう私には明日はやってこないかもしれないな」


この世界は私が死の瞬間に見ている長い夢だとしたら


そうでなくても、この永遠とも言える入学式の日を繰り返すだけの人生だとしたら、


そんな後ろ向きなことを考えていると、やがて私にも眠りが訪れた。


「・・・・・・」


誰かの声を聞いた気がした。


「・・・大丈夫・・だよ」


その声に促されるように、私は深い眠りに落ちて行った。



***



「えーお前たち付き合っていないのか」


「付き合ってはいないかな」


部活の先輩に聞かれてそう答えた悠。


その時の私は、なぜか悠のその返事がとても不満だった。

何をするにも一緒の二人。

いまさら告白する必要すらない程強固な関係。

彼氏彼女とか意味など無いように思えた。


確かにその時の私達は子供だった



「浅野さん」


美術教室で1人デッサンをしていると急に声をかけられた。

3年の先輩。

私は彼のことが苦手だった。


その理由も髪を金色に染めていること以外にもあった。

女癖が悪いという噂が

何故そんな人が美術部にいるのか不思議だった。


「ねえこれが終わったら、どこか行こうよ」


ほらきた


「いえ約束がありますから」


「約束って彼のことでしょ。今日委員会で遅くなるらしいよ」


何で知っていいるんだよ。

私は言い訳が見破られていたことにため息を付いた。


「何度も言ってるじゃないですか、あたしには好きな人が居るんだって」

だから先輩とはお付き合いできません」


「それって橘くんのことでしょ」


「言う必要ないです」


私がどんなに怖い顔して言っても先輩はヘラヘラ笑ってばかりだ。


「わかった、もう言わないから。最後に一緒に帰るのは良いでしょ、ほんの30分くらいだから」


まあ、それくらいなら

あんまり断り続けたら何言われるか怖いし。


「わかりました。でも今日だけですよ」


「おっけい!ありがとうね!うれしい!」


先輩は子供みたいにはしゃいでて

それが少しだけおかしかった。



「それでさ!」


「あはは」


先輩は外見に合わず細かくよく気がつく人だった。わたしが考えたときには先回りしてやってくれた。それは次第に私を心地よくしていった。


「陽菜ちゃんの手すっご小さくて可愛いね」


「えーみんなと同じですよ」


でもはらみてご覧そう言って私の手を取り自分の手と並べてみせます。


「うわでっかい!」


「ね。だから陽菜ちゃんの手はとても小さくて可愛いんだよ」


そう言って手を離すと思ったら繋いできました。


「せ、先輩手が!」繋いだままですよ。


「恥ずかしい?」


「・・すこし」


「そっか」


なんだかすごくドキドキする。手を繋いだだけなのに・・・

交差点で先輩は立ち止まり、


「今日は一緒に帰ってくれてありがとう!とても楽しかったよ」


そう言ってにっこり笑顔を見せた・・・あたしは、どうなんだろう


「陽菜ちゃんはどう、たのしかった?」


「・・・はい」


そう答えて恥ずかしくなり、私は終始うつむいたままでした。


「また一緒に帰っても良い?」


「はい」


なんで断らなかったのでしょう

たぶんその時の私はおかしかったのでしょう。


「それじゃ、またね!」


「はい!また!」





それから私と先輩は時々一緒に下校してお喋りをした。


別に変なことは何もやってない。

だけど、時々悠と目が合うとそらされてしまうことが多くなった。

何でそうなったのかわからない。


別に悠と付き合っているわけでもなのに、私の中で罪悪感だけが膨らんでいった。



「デートですか?」

「違うって!今度展覧会一緒に見に行こうって話」


確かに告白もされてないし、好きとも言われてません。

では私達の関係は一体何なのでしょう


「いいですよ」


見に行くだけなら問題もない。

それに最近悠がかまってくれなくなったので、休日に暇を持て余していた。

一緒に帰ろうと誘っても断られることが多く、そのうち誘うのが怖くなった。


嫌われたのかな。

きっと私が、悠に嫌われるような事をやったんだろう。





展覧会は私の想像以上に素晴らしいものだった。

興奮した私は帰り道もその事で先輩と盛り上がった。

そんな私の事を見ていた先輩が急に立ち止まった。


「どうしたんですか」


振り返った先輩は、私をぎゅって強く抱きしめた。


「先輩?」


「もう、好きすぎて頭が変になりそう!」


ああ、この人は自分に正直な人なんだ。

私とは正反対だ。


先輩といると楽しいけど、心のなかでは終始罪悪感でいっぱいだった私と違って。


先輩の顔が近づいた。  あこれはキスされるな


どこか他人のような自分がそこにいた


ファーストキスはどんなだろうって小さい頃考えてたけど、ただ脂肪と脂肪がぶつかるだけだった。たったそれだけの事だった。


「俺と付き合ってくれないか」


私はなんて答えれば正解なんだろう。


「いいですよ」


でも口から出たのはそんな言葉だ。


もう後戻りなどできない。

先へ進むしかなかった。


その時の私は 


幼い思考しか持たない私は


そんな最悪の言葉を発してしまった。




次の日には私が先輩と付き合ったことが美術部全員が知る事となった。


「・・・おめでとうっていうのかな」


「なにそれ」


悠がぎこちない笑顔でそう言った。

その言葉に胸がチクリと傷んだ、


「あーあこれでようやく悠のお世話係卒業だよ」


「ひどいな」


何だ私は笑えるじゃないか。どこを見ても笑えてるよね。


それからはあっという間だった。


夏を前にして私は大人になった。

よりによって美術部室の中で


その時彼が部屋の鍵をかけたか覚えていない

ただその日から悠が部室に来ることはなかった。


「何もすることがないなー」


部室での一件はいつの間にか教師にしられてしまい、私達は無期限の停学処分となった。

その後彼と会うことは一度もなかった。 別に会いたくもなかったけど。

私は薄情な人間だな。こんな時だと言うのに彼ではなく悠に会いたかった。


引き返す機会はいくらでもあった

私はその全部の機会をスルーした。


『高校に入ったら彼から告白されて、カレカノになって、いっぱいデートしたいな』


入学まではそう考えていた。


しかし悠は告白するでもなく、今までと全く変わらない生活を選んだ。


そんな悠に私が勝手に失望しただけだよ。

その結果がこのザマだ


「あ、メールが来てる」


どうせ私の悪口だろうけど、退屈しのぎにはなるかな。

何の心の準備もしないまま私はそれを開いてしまった。


そこには私のたった1人だけの幼馴染が


この世界からの別れを告げたという知らせだった。


私の戻る場所は、永遠に失われてしまった

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