第6話
(む、無茶苦茶しやがんな! あの船の奴ら!)
間違いなく大砲を撃っているのだろうが、ここにいる連中もろとも吹き飛ばすような勢いだ。
(いや、違うか。狙いはあくまでも沿岸部周辺。採掘場へは一発たりとも撃たれてねェ)
本当に無差別ならば、島の全体を狙って攻撃を放つはず。しかし奴隷たちが監禁されている採掘場を避けているように思う。
あの帆を見る限り海賊だと思うが、海賊が奴隷の命を優先するだろうか。
(奴隷になった仲間を救いにきたか、あるいは採掘場を傷つけずに手に入れたいか。それとも……)
海賊の思惑は読みにくいが、これは良い機会のように思えた。
その証拠に、監視者たちは砲撃に巻き込まれて次々と数を減らしている。
今ならと思い、ログはすぐさま木から降りて採掘場へと駆け出す。
やはり見張りはおらず、かなり動き易くなっている。
それでも指揮官らしき存在は、いまだに採掘場の中央付近に部下らしき者たちと険しい顔で状況を把握しようと努めていた。
「何ぃ! 海賊だとぉ!? 海賊がこんな島に何の用があるというのだ!」
指揮官らしきいかつい顔をした男が怒鳴り声を上げていた。
「ええいっ! 今すぐその愚か者たちを皆殺しにしてこいっ!」
「し、しかしレデッカ様、相手は巨大な帆船です。こちらは小舟しかなく、とても太刀打ちできるとは思えませんが?」
どうやらレデッカというのが指揮官の名前らしい。
「黙れ! 俺の命令に逆らえば貴様も奴隷に落としてやるぞ! それが嫌ならさっさと全戦力を集めて奴らを潰してこいっ!」
その威圧的な言葉に反論できない部下たちは、言われた通り全員で沿岸部へと向かっていった。
(……アイツ馬鹿なのか? あんな巨大帆船相手に小舟で何ができるってんだ? モーターボートがあるってんなら話は別だけどよぉ)
高速で移動することができる船なら、相手を翻弄したり懐に素早く入り船に乗り込むことだって可能かもしれないが、手漕ぎボートでの侵攻を試みているのだとすれば甘い考えだとしか思えない。ゆっくり動く船など格好の的にしかならないからだ。
(それにこんな状況で一人になるのは大将としても失格だぜ)
監視される危険がグッと減ったお蔭で、さらに動き易くなったログは、アドムから聞いた奴隷たちの収監場所へと向かう。
監視者が寝所として利用するために建てられた建物の傍には、大きな岸壁があって、そこには複数の穴があり鉄格子で閉ざされている。
幸い閂型のロックなので鍵は必要ない。そこに辿り着くと、この騒ぎに何事かと気になったのか、格子の傍まで奴隷たちが近づいてきていた。
「な、何で子供が!?」
当然ログの姿を見た奴隷たちが驚いて声を上げるが、「しー」と人差し指を立てて静かにするように促したあとに、さらに言葉を続ける。
「今、外に出してやっから。とりあえずその後はアンタたち自身で判断して行動してくれ」
そう言い放つと、次々と閂を外していく。
そして扉が開くようになり、奴隷たちもまた困惑してはいるが外へと出てくる。
「ぼ、坊主? 一体何が起きてるんだ? さっきの衝撃は?」
「さあね、どうやらこの島に海賊が来てるみたいだぜ。監視者どもは、その相手に奔走中だ。ちなみに、アンタたちをこんな目に遭わせた奴らのトップが、たった一人であそこに立ってるけどな」
レデッカがいる方角へと指差すと、奴隷たちのほとんどから殺意や敵意が溢れてくる。
「これをチャンスと捉えて動くのも、どうせ逃げてもしょうがねェって捉えるのもアンタたち次第だ。ただ俺は、こんな退屈なところで一生を終えるのはゴメンだけどな」
それだけを言うと、ログはそのまま踵を返す。
奴隷たちは初めてのことで戸惑っている様子だ。互いに顔を見合わせどう動くのが正しいのか悩んでいるが……。
「お、俺はやるぞ!」
「そうだ! このまま何もせずに殺されるのは嫌だ!」
「私も! 故郷に帰りたいわ!」
などと水に投げた石が波紋を広げるように、どんどん決意の声が大きくなっていく。
すると彼らは近くにある工具小屋で、ツルハシやシャベルなどを手にすると、なだれ込むようにしてレデッカがいる方へ駆け出していった。
当然そのような状況になっているとは露知らないレデッカは、反乱した奴隷たちの姿を見て愕然とする。
「き、貴様ら、何故ここに!? どうやって出てきたというのだっ!?」
奴隷たちはレデッカを逃がさないように取り囲む。
レデッカが一人に対し、奴隷たちは数百人といる。しかも屈強な男性たちが武器まで持っている状況だ。これは明らかに勝負がついたと思うだろう。
それは奴隷たちも感じたのか、その表情には余裕さえ見える。
しかしレデッカは驚いたものの、すぐに顔を怒りで染め上げ、腰に携帯している剣を抜いて構える。
「調子に乗るなよ、クズ共が! 奴隷が何匹たかろうが、我が波導の前では無為に等しいわ!」
レデッカの気迫とともに、驚くことに彼が持つ剣の刀身が三つに分かれて、まるで生きているかのように伸びて奴隷たちに襲い掛かってきたのである。
その攻撃に反応し切れなかった奴隷たちは、身体を貫かれて地面に倒れ伏す。
「グハハハハ! どうだ、我が《オロチブレイド》の威力は!」
なかなかに物騒な名前の剣である。
(!? ……そうか、アレが――《波導器》か)
それは異世界ならではのファンタジーなアイテムであることは、アドムから情報を得ていた。
何でも古代の遺産であり、現存している数にも限りがあり貴重なものらしい。形は様々で、剣だけでなく槍や盾などもあったり、本や筆などといった武器以外のものも存在するとのこと。
人間が発する波導と呼ばれるエネルギーに呼応し、《波導器》に込められた能力を発揮させることができるのだ。
恐らくあの《オロチブレイド》とやらは、刀身を任意で分割させて操作することができるのだろう。
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