第41話 どうして
しかしその結果、也夜は事故に巻き込まれてしまったのだ。
なぜ元彼と会うと也夜は言ってくれなかったのか。言ったところで來は止めた、それしか答えはないのだが來はちゃんと言って欲しかった気持ちが強かった。
來は自分の過去の恋はすべて曝け出した。
初めての相手が大輝であり、恋人でもあったということ。
当時の自分はネコでタチの経験がないこと、大輝以外の男も女も知らない。
也夜はそれを揶揄することもなく聞いてくれたことを思い出す。
アイドル時代のことを含め也夜は過去のことをあまり自分から話すことはなかった。アイドル時代の時以外のことは案外話してくれた。性癖やさほど多くはなかったが経験人数とか。
しかし思えば分二のことは何人かいた恋人の一人の話の中にいたのだろうか、そう思うとどれが分二のことだったのだろう。來は思い出そうとするがそれを思い出すのはもう辞めたようだ。
アイドル時代のことはもう也夜にとっては忘れたい過去なのだろうか。辛い別れ方をした分二との思い出もある。
來はふと気づいた。
これは全く同じだ、自分も也夜が事故に遭い別れるように言われ忘れるために奔走していた時もそうだが也夜も分二もそれぞれ忘れようとしていたんだと。
「分二も也夜とのこと忘れようとした?」
「ああ。でも、……忘れようだなんてできなかったよ。彼のことを思って物理的に距離を置いたけどやっぱり忘れられなくて……也夜が通っている美容院なんぞ知ってしまったからそこに通ってみたり。まぁもともと大輝とはゲイのコミュニティで知り合ってたし」
大輝との繋がりは同じ同性愛者である繋がりだったのかとびっくりしたが似たもの同士群がりやすい、とのことなのかと思いながらも
「別に大輝とはそういう関係じゃないからね。経営者として話は合うし。それに大輝は……僕の好みじゃないし」
と分二はすぐ付け加えた。あえて言うあたりが少し疑うが確かに也夜や來とは系統が違う……ゴツい系の大輝。
分二はそういうのがタイプではないとわかった。別に関係があっても世間は狭い、しょうがないという気持ちも來にはあったようだ。
「そしたら君が大輝のアシスタントとして働いていた……まだ若い君を見て也夜のことを思い出して重ねてみていた」
「そうだったんだ……でもそのときに也夜と会おうとは思わなかったのか」
「……うん、彼の仕事の妨げになると思ってな。でも本当は会おうと思えば会えたのにな。そうすれば君は也夜と付き合うこともなく……」
「……」
もし分二が也夜に再会していたら自分は也夜と付き合うことなかったのかと來は不安になったが……どうなっていたのだろうifの話をしたらキリがなさそうである。
「二人が結婚する、その話を聞いて……最初は羨ましかったけども。也夜が今度こそ、今度こそ幸せになれたならと」
來はふとあることを思った。
「そいや分二は也夜のご両親には会ったのか?」
「会ってない」
「会わずして結婚しようとしたのかい」
「会ったら絶対反対したろ。也夜もそう思ってたけど」
「そうだよな……でも僕は也夜のご両親と会って……妹の美園さんにも会って……」
「多分也夜も大人になったのだろう。あの頃彼も僕も若かった。きっとあの時結婚を決行してたら逃げて逃げての生活だったろうし祝福をしてくれる人なんていなかったのだろう」
來は也夜からは自分の全てを出す、そのことで多くの人から共感してもらったというのも分二とのこともあっての教訓だろうか。多くの人に認めてもらって祝福してもらえれば幸せな結婚生活を送れると思ったのだろう。
也夜の過去を知らずしてそんな経緯だったのか、でもそれは也夜しか知らないことである。
「あの時は勢いだったからなぁ……恥ずかしいや」
「僕らもそうだったよ。でも也夜はしっかりしようって」
「だよな。それも雑誌で読んだよ」
「そいやそうやって書いてたね」
分二も、すっかり涙はひいたようだ。
「でも也夜、本当にあの時の夜会ってくれるとは思わなかった……」
「……」
「ありがとう、あの時会わせようとしてくれて」
「ありがとう……ていうのかな。也夜は友達と会う、それだけだったからさ。断る理由もなかった。……まずあの当時也夜と分二の繋がりはわからなかったし。わからなくてもきっと仕事とかそういうつながりかなとか。……もしかしたら僕もついていったかもしれないって、ああ……もうこんな話やめよう。キリがないよ」
來は目を瞑った。いつもとは違う分二の部屋。匂いも違う。
「來……」
「もうこれ以上何も言わない……今日はもうゆっくり寝よう」
分二は頷いた。來も目を瞑った。
何度もあの時はこうしてれば、そうしてたら、その話はもういい……來はそう思った。
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