第4話 上社家
処置は終わったようで見える表情からして眠っているかのようだった。
「お兄ちゃんっ……」
先に也夜の両親たちもいて母親の方は泣きじゃくり、父親は呆然と座っていた。
「也夜……也夜っ」
と也夜に近づき触れようとしたところで看護師に止められた。
「ダメですよ!」
「だって也夜っ……也夜!」
「落ち着いてください、てこの声。電話の」
來もその看護師の声に聞き覚えがあった。あの電話の主だ、と彼も気づいた。
「……也夜さんのご友人……」
「は、はい……也夜は……也夜は?」
「落ち着いてください。てかあなたは家族じゃないのに何で入ってきたの?」
家族じゃない、その言葉に來は傷つく。パートナー協定を結ぶのは明日である。だからまだ來と也夜は家族ではない。赤の他人からしたら尚更であろう。
「明日には僕ら、家族になるんです……パートナーなんです!」
看護師はハッとした顔をして也夜と來を交互に見る。
「そうです、兄はその彼と結婚するから一日前倒しでもいいじゃないですか?」
両目から涙を流す美園は強気で看護師に捲し立てるが看護師は首を横に振る。
「規則は規則です。あなたが入れたのですか」
「はい、入れました。一緒に入りました。もう彼も私たち
そう言い切る美園に來は少し心は救われた。來と也夜が一緒になることを最初に快く認めてくれた1人でもある。(少し時間はかかったらしいが)
看護師は戸惑いつつもため息をついた。
「……規則は規則ですが……今回はいいでしょう。また先生から説明あります。みなさん一旦外に出てください」
と言われて4人は一旦部屋から出ることに。
也夜の寝ている姿をみる來。胸が苦しくなる。心電図は動いている。也夜は生きている、それを信じるしかない。
病室の外のベンチ。ようやく也夜の父が口を開いた。
「きっと死んだ婆さんが結婚をやめさせるために……也夜を天国に呼び寄せたんだろうか」
という言葉である。來は言葉が出なかった。美園も何か言おうとしたが也夜の母親が
「お父さん、何馬鹿なことを。來くんもいる前で」
と言うが父親は返さない。
「そうよ、お父さんっ! お兄ちゃんと來くんのことは認めてくれていたじゃない、家族のようだって」
美園も応戦する。
「……也夜がもう聞くに聞かなかった。だから、認めるしかなかった」
確かにそんな気もした、と來は思ってはいた。
「わたしもお父さんが認めたから……來くんは悪くはないけどやっぱ、ねぇ、ねぇ……っ」
也夜の母は再び膝から崩れ落ちて泣き出した。
「お父さん、お母さん! お兄ちゃんと來くんの前でっ……ひどい」
上社家の三人、眠る也夜、パートナーシップを結ぶ前でこの中では部外者の來だ。
「上社さん」
医師がやってきた。すると也夜の父が來に頭を下げた。
「今はごめん、帰ってくれないか……來君。また改めて伝える。こちら側の親戚、友人側には連絡をする……」
非情な言葉に來は一筋の涙が流れた。美園も何かを言おうとしたが母親に止められた。
「……ごめん、來くん」
なんのごめんか來は気持ちの整理がつかない。
病院からフラフラと出ていくとちょうどその頃、美園に聞いたのであろう來の上司である大輝がやってきた。
「來、しっかりして! ……也夜は……」
大輝もモデルである也夜のヘアメイクを担当していているため交流は長かった。來は大輝の下で働く美容師であった。
「也夜の事務所の人たちは知ってるのかな」
「家族以外はいなかったのでこれから連絡すると思います」
と大輝から離れて1人で去ろうとする來。
「來、君も……也夜の家族じゃないか」
大輝にそう引き止められる。來は首を横に振る。
「……家族じゃないですよ、たった紙一枚出してないだけで……このざまですよ。帰ります」
「そんなっ! 來!」
來はドアに手をやるが耐えきれず膝から崩れ落ちる。
そんな彼を大輝が抱きしめる。
「うあああああああっ!!!!」
その後、也夜の事務所にも連絡が行き、そこそこ名のある也夜の事故は全国ニュースにも流れた。
そのこともあってか結婚式中止の連絡も來がしなくても済み、何人からも電話やメールが来た。
どうやって部屋に戻ったのだろうか。來は思い出せない。大輝に連れてこられたのだろう。何人か仲間や職場の人たちも駆けつけてくれた。
後から聞いた話では外には報道関係者も数人ほどいたらしい。
ファンたちは也夜のSNSにたくさんコメントをし事務所のサイトも一時見れなかったらしい。
來はこの時に自分はすごい人と一緒にいたのだ、という実感をした。
也夜は多くの人に影響力があるのに自分と一緒になってくれた、そしてさらに一生これからも一緒と決断してくれたのかと思うと……。
「大丈夫、來。まだ死んでないんだから……ね、大丈夫」
ずっと大輝が來を抱きしめてくれていた。美園を通じて也夜の状況がわかったのは事故があった次の日。
來の代わりに大輝が聞いていた。
「……心拍も呼吸もなんとか機械で……でも予断は許されない。もし自発的にできるようになっても障害は何かしら残る可能性が大きい……」
わからない、そんなのは……來はまた也夜に会いたい。あのベッドの上でもっと愛し合えばよかった……離れずにそばにいればよかったと。
「しばらくは家族も面会できないそうだ。運ばれた時よりも状態は悪化していると」
「ああああっ」
大輝にしがみつく來。涙は枯れ果てない。
「しっかりしろ、來。家族じゃないだなんて、たった紙一枚で家族じゃないとかそんなことはない。家族同然、なのに……回復を待つんだ、気を確かに」
來は肩を掴まれるがダメだった。大輝はしょうがないか、と泣き止むまで來を抱きしめた。
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