第4話 私生活もネコは見ている

健「『欠乏』ってどういうことですか!? 僕は潤沢な資金や、病魔に負けない強靭な肉体を願ったんですよ?」


セン「やはり気付いておらんのか、それが欠落を示していることに。お主は存在しないものを追い求めることで、自身の中にある不足感を強調していたのじゃぞ」


健「成功したい、健康になりたい、そう願って理想を追い求めることの何が悪いんですか?引き寄せの法則って、そういうものでしょう?」


セン「違うのお。引き寄せは宇宙の法則であって、方法論ではない。良い夢を見ればサンタクロースがプレゼントを運んで来るとでも思っているなら、それは商売人が小遣い欲しさに作り出したノウハウでしかないじゃろ。ネッコは人間の意思を否定しない。お主が全身全霊で足りないものがあると表現するなら、世界はその不足を肯定するしかないのだ」


健「うーんと・・・抽象的でよくわからないのですが、不足とは・・・?」


セン「のう、株式投資で大金を求める時、お主は経済的に恵まれておったか?」


健「そんなわけないでしょ! 恵まれていないから、頑張って働いて、食事は半額の弁当やお惣菜を買って元手を作ったんです。夜遅くまでコンビニや交通整理をして稼いだバイト代と、両親が残してくれた貯金を全て使いました。立派な投資家からすれば僅かな金額でも、負け組人生を一発逆転できると信じて成長企業に投資しました」


セン「負け組というと、お主は経済的に困窮しているのを自覚しておったのじゃな?それは『欠乏』ではないのか?」


健「それは・・・そうかもしれません。きちんとした企業に就職できなくて、医療費もたくさんかかって、いつもお金がないと嘆いていました」


セン「世界の答えは、常にイエス。お主が貧乏だと思うなら、この宇宙はお主の困窮を肯定し続けることになるのじゃ」


健「『お金が欲しい』は、『お金がない』の裏返しだったということですか?」


セン「その通りじゃ。億万長者が貧乏から脱出しようとは思わない。妻帯者は彼女を欲しがったりしない。健康な者が健康食品を試したりはしない。既に十分に持つ者がさらに上を目指す分にはいいが、不足感を抱く者がそれを変えようとするのは、さらに不足するように要求しているのと同じなのじゃ・・・」


・お金が欲しい=私はお金がない

・健康になりたい=私は不健康だ

・彼女が欲しい=私はモテない


振り返ってみれば、全てこの老猫の言う通りだった。僕はなんとしてでも足りないものを手に入れようともがくことで、自身がどうしようもなく欠けた存在であることをアピールしていた―――

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