11月12日 夢日記『追ってくる者』

 11月12日 夢日記『追ってくる者』


 ……ベッドの中で微睡んでいると、窓の外から人の気配を感じた。

 どうやら外に誰かがいるらしい……アパートの周りの砂利を踏む足音が微かに聞こえてくる。

 

 足音の正体は1人ではない、複数人いるように感じる。複数人の足音は俺のアパートの周りをぐるぐると回っている。


 目的はなんだ?隣の住人か?それとも近所の小学生が悪戯でもしようとしているのか?もしかしてアパートの大家かもしれないな。


 最近は物騒な世の中だ。もしかして泥棒なのかもしれない。確か近所の老人が住む住宅に金品の強奪目的で殺人事件があったばかりじゃないか……


 俺はベッドの中、息を潜めて外の様子を伺っていた。


「いや……さては……」


 なんらかの俺の悪事がばれたのかもしれない……

 踏切の件か?それとも会社やスーパーの件かもしれない。それとも焼肉屋の家事か車の事故……前妻への放火か?思い当たる節が山程ある……


 だとしたら相手は警察官だ、貧相な俺に勝ち目は無い。おそらく相手が本気で確保しようとするなら逃げ場はないだろう。


 俺はベッドの中、足音の正体を模索していた。足音は止まると何やら会話が聞こえてくる……


「……が…………の……だ」


「お…………に……ろう……」 


「…………すぐに……よう……」  


 会話はアパートの外でしている為に聞こえにくい、風の強い夜だ。さらにかなり小声で喋っている為、ところどころしか聞こえてこない。俺はもどかしさに苛立ち始めた。


「…………夢見だな……」


「…………捕まえよう」


 判別しにくい会話の中で、確かに俺の名前が会話に入っている。捕まえよう……この言葉から考えられるのは警察だろう。この狭いアパート、逃げるならば寝室とリビングの窓、または玄関からしかない。


 俺は身の転がし方を考えていた。足音の目的は俺だ。転がっていたバールを手に持ち、カーテンの隙間から外を確認する。


 辺りは暗く、カーテンの隙間からでは周囲を確認しにくい……


「相手は誰だ……」


 カーテンを覗く俺に緊張が走る、夏を終えて寒い冬が近づく季節なのに次から次へと汗がこめかみから顎に掛けて流れていった。

 

 覗いたカーテンの隙間から暗闇の中に蠢く人影が見えた……相手はおそらく3人だろう。人影の瞳だけがきょろきょろと暗闇の中を動いていた。


 手に持つバールに力が入る……相手は警察か?それとも強盗か?俺はカーテンを覗きながら、様子を伺っていた。


「……夢見だ…………する」


「…………確保しよう」


 “夢見”と“確保”2つの言葉が聞き取れた、相手は確実に警察だ。俺を逮捕しようとアパートの周りを張り込んでいるんだ……俺は確信した。


「まずいな……今、捕まるわけには行かない……」


 俺がどう逃げるか考えているその時……

部屋のチャイムが鳴る、俺は息を殺してモニターを確認すると暗闇の中、目を光らせた黒い人影の1人がモニターに映る……


「遂に来たな……俺を狙っているんだ……」

 

 チャイムを無視しながら、俺は小さく独り言を呟いた……どうにか逃げないといけない。


 チャイムを無視していると玄関のドアが強く叩かれた。


「夢見さん、いますか?」


 ドアは更に叩かれる……


「夢見さん居るんでしょ?お話し聞かせてもらえませんか?」


 ドアが壊れる程、強く叩く。モニターを確認すると、相手は1人しか確認出来ない。

 おそらく他2名は別の場所に待機している筈だ……俺は寝室のカーテンの隙間から外を確認する。暗闇の中、2つの人影が俺のアパートに目を向けている。


 鍵は閉めていただろうか?俺は不安に包まれる、閉め忘れてベッドの転がった筈だ……


 ドアを叩く音が止むと、ドアノブを回す音が聞こえてきた……案の定、鍵は閉まっていなかった。


「夢見さん、失礼しますよ……」


 声が部屋に響き渡る……黒ずくめの男だ。おそらく私服警官だろう、俺は逃げるべく経路を模索する。

 トイレの狭い窓から身を乗り出し、外に脱出する事に成功した。


 別の場所に待機していた別の男が俺に向けて声を上げる……


「夢見だ……夢見が居たぞ……」 


 俺は声に焦り、裸足のまま暗闇を走り出した。


 後ろには黒ずくめの男、3人が俺を追ってくる……裸足にも関わらずに全力で俺は走って行った。足の裏に痛みが走るが、気にしてはいられない。

 その時、足元に何かが通り過ぎて行った……猫だ、闇に同化するような黒猫だ、黒猫は俺の足元に絡みつき、俺は転倒する。倒れながらニヤの言葉が思い出していた……


“そうだ、クロを探してよ……”


 ニヤはそう言っていた……俺はクロを探さないといけない、闇に同化する黒猫へ手を伸ばそうとすると、黒ずくめの男達が俺に覆い被さる。

 俺の腕を後ろに組み、体重を掛けてくる。俺は痛みを堪えた。


「確保……夢見を確保したぞ」


 声はうるさく鳴り響く。俺は黒猫が離れていく姿を見ていた……


「待ってくれ……」


 俺の声は黒猫には届かない……そこで夢は終わった。

 

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