11月2日『公衆電話』
11月2日『公衆電話』
……天井に手を伸ばしながら目を覚ました。
手を伸ばして目覚める……こんな事は初めてだ。
一体、俺は何に対して手を伸ばしていたのだろか?何かを追っていたのかもしれない。
腕が痺れている、どれぐらいの時間、手を伸ばしていたのだろう。
時計で時間を確認する……真夜中の2時だ。
疲れのあまり早く寝過ぎてしまった為か、こんな時間に目を覚ましてしまった……どんな夢を見ていたのかも思い出せない。
再度、布団をかけ直して、また眠ろうと試みるがどうにも寝付けない。俺は諦めて煙草を吸う為に起きた。
いつものキッチンで椅子に座り煙草を手に取る。しかし箱の中身は空だ、煙草を切らしてしまっているようだ。
「あぁ……困ったな……」
こんな寒い夜中に買いに行くのも面倒だがどうしても煙草が吸いたい。
吸いたくなると止められなくなってしまう、喫煙者の悲しい性だ。
俺は意を決して買いに行くことにした。寝巻きのままサンダルを履き、外に出る。
もう11月になる為に、夜になるとかなり冷え込んでしまっている。
俺は寒さに身をすくめながら最寄りのコンビニを目指した。
コンビニまでは歩いて10分もかからない場所にある。
どうせ眠れないのだ。最近、運動不足だしな……そう思い、散歩がてら歩いて買いに行く事にした。
何もない田舎道を歩きながらふと空を見上げると星がよく見える綺麗な夜空だった。
「綺麗だな……」
俺は独り言を呟いた……吐く息は白い、もう冬が近づいているのだ。
もう真夜中の2時だ、車もほとんど走っておらず暗い道がどこまでも続いている。
しばらく歩いているとコンビニの灯りが見えてきた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると夜勤のアルバイトの男が気怠そうにレジに立っていた。
俺が寝ている間にも、こうして働いている人がいるんだなと当たり前の事がなんだかとても不思議に感じられる。
馴染みの煙草を買い、外に出て火をつける。
吐く白い息も合間って煙はとても大きく広がって空に消えた。
それにしても本当に星が綺麗な夜だ。俺は何か不思議な“感覚”に包まれる。
前にもこんな事があったような……また既視感か……最近よくこの“感覚”に包まれる事が多い。
時間を確認すると2時30分だった、明日も仕事だ……帰って早く寝よう。
俺はまた暗い夜道を自宅に向かい歩き出す。来た道と若干ルートを変え帰る事にした。
どんどん冷え込み、薄着である事に後悔した。
しばらく歩いていると暗い夜道の中に薄明かりが見えてくる。
「なんだろう?」
目を凝らしよく見てみると公衆電話である事がわかった。
こんな所に公衆電話なんかあっただろうか?
普段使わない公衆電話を意識する事がない為に気付かなかったのか?
俺はまた不思議な“感覚”に包まれた。前にもこんな事あったような……
公衆電話の近くまで歩き、中をよく見てみてる。あまり使った事が無いな。
もう、携帯電話が普及した今の世の中、使う人も少ないだろう。
そんな事を考えながら公衆電話の回りをぐるりと周ってみる。
緑の屋根に緑の電話、ガラス張りの小さな空間。
視点を下に向けると公衆電話の中に何か黒いモノが見えた。
なんだろう?……よく見るとそれは真っ暗な毛並みの猫だった。
「どうして?」
俺は声をあげてしまった。何かのはずみで黒猫が公衆電話に入ってしまったのだろう。
出してやらないと……俺は公衆電話のドアに手を掛けた、ドアの隙間から黒猫がゆっくりと出てくる。
どうやら首輪しているようだ……飼い猫が夜の散歩でもしていたのだろうか?
黒猫は俺から距離を取りこちらを見ると、しきりに鳴き始めた。
「にゃぁ……にゃぁ……にゃぁ……」
お礼でもするかのように黒猫は鳴き始める。
俺は黒猫の鳴き声を聞き、またあの“感覚”に包まれる。
そうだ……これは夢で見た光景だ。
寒い夜の道……
綺麗な星空……
黒猫……
公衆電話……
それから……それからどうした?
俺は黒猫に向かい歩き出した瞬間……背後に大きな音がした。
振り返って見てみると真っ赤な車が公衆電話に衝突している。
エンジンが静かなタイプだった為、俺は走ってくる車に気付けなかった。
公衆電話のガラスは割れ、真っ赤な車の中に年老いた男性がエアバックに顔を埋めている。
そうだ……夢と同じじゃないか。
俺がもし、黒猫の元に歩き出さなかったら確実に事故に巻き込まれていた。
黒猫を探すともう居ない……事故には巻き込まれなかったようだ、黒猫も無事だった事に安堵した。
俺は車の中の男性に声を掛けると微かに返答があった。
急いで119番に連絡をすると10分もしない内にサイレンが鳴り響き救急車と警察が到着した。
状況を説明し、家に帰る頃にはすでに4時を過ぎてしまっていた。
気がたかぶってしまい眠れそうにない。なんだか、夢の中の出来事のようにも感じる。
俺は夢の内容を忘れないよう、すぐに夢日記に書く事にした。
夢占いでは黒猫は吉報の表れらしい、確かに黒猫が居なかったら俺の命も危なかった……黒猫に感謝しなければならない。
夢日記を書いている中、ある違和感に包まれる。
あれ?夢で煙草を買いに行ったんだっけ?
コンビニの帰りに確か黒猫に導かれて……
いや違う……
夢とついさっきの出来事が混ざってしまいはっきりと思い出せない……事故を目の前にして気が動転してしまってるのかもしれない。
どこからが夢で、どこまてが現実なのか曖昧に混ざり合ってしまっている。
外を見るとすでに明るくなり始めていた。
俺は寝るのを諦めまた煙草に火をつける。時計は朝の6時を指していた。
夢と現実が混ざり合う奇妙な感覚は無くなることはないまま朝を迎えた……
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