第19話 カラバ王国3 王の館

 かつてエリオスの神々と天空の領有権を争った天空の巨人タイタスは優れた技術を持っていた。

 雲の上に城や館を築き、数々の魔法の品物を作ったとされている。

 しかし、それは昔の話だ。

 天空の巨人タイタスはエリオスの神々に敗れ、姿を消した。

 だが、その遺品は今でも残っている。

 オーガは天空の巨人タイタスの眷属であり、その後継者を名乗り遺品を今でも受け継いでいる。

 雲の上の城を受け継いだオーガの話は有名だ。

 天まで届く豆の木を登り、オーガの宝を奪った少年の話はシズフェも聞いた事がある。

 そして、カラバ王の館は元々オーガが所有していた別館を改装したものだ。

 館はオーガの技術を使われているためか立派であり、辺境の地でありながら外観はソノフェンの王宮に匹敵する。

 しかし、人の大きさに合わせて内装を変えているので外観程立派ではない。

 館の元の部分と人の手で変更された部分でチグハグさを感じる装いだ。

 シズフェ達はフィトクィアの後に続き王の部屋へと向かう。

 

「陛下。お連れいたしました」

「……そうですか。フィトクィア殿。中へ……。ゴホゴホッ」


 中から咳き込む声がする。

 

「皆様。どうぞ、陛下がお待ちです」


 フィトクィアが扉を開けるとシズフェ達は中へと入る。

 寝台の上で上体を起こした男性がいる。

 やつれていて年老いているようような感じだ


「ようこそカラバ王国へ。私はこの国の王カラバストです。このような状態でお会いするのをお許し下さい。ゲホッ」


 カラバストはそう言って頭を下げる。

 かなり状態が悪いようだ。

 

「お初にお目にかかります、陛下。私はシズフェリア。皆を代表してご挨拶申し上げます。ソノフェン王国のヴィナン王子様からの依頼でこの国に来ました。色々とお話を伺いたいのですが……」


 シズフェは戦乙女の兜を脇に抱えて頭を下げると他の仲間達も頭を下げる。

 ちなみにノヴィスは横のケイナから無理やり頭を下げさせられている。

 どんな相手にも自分から頭を下げたりしないのがノヴィスだ。

 しかし、それだと問題なのでケイナからシズフェが無理やり頭を下げさせているのだ。


「おお、ヴィナン殿の……。ゴホゴホ! すみません、王である私が応対したいのですが……。このような身。あまり近づかれぬ方がよろしいかと。病が移るかもしれませんから……。フィトクィア殿。申し訳ないが私の代わりをお願いできないだろうか?」


 カラバストはそう言ってフィトクィアを見る。

 確かに喋るのも辛そうであり、シズフェ達の応対は難しそうである。


「はい、わかりました、陛下……。ではシズフェリア殿。隣の部屋に行きましょう」


 フィトクィアはそう言ってシズフェ達を隣の部屋へと案内する。

 隣の部屋は応接室らしく、1つの巨大な卓と複数の4つの椅子が用意されていた。

 

「申し訳ございません。椅子を用意しますので少々お待ち下さい」


 フィトクィアは椅子を用意するために動きながら説明する。

 今館で働いている者はほとんどいない。

 理由はカラバストの病が移る可能性があるからだ。

 フィトクィアは癒し手として病に対する耐性があるらしく、カラバストの看病をかって出た。

 カラバストの身の回りの世話はフィトクィアと選ばれた2人だけで、他の使用人は姫と共に館から離れて暮らしているそうであった。

 シズフェ達はフィトクィアが用意してくれた椅子に座る。


「かなり、大変な状況のようですね……」

「はい、人手が足りず。また、急な事だったので、お茶も用意できないのをお許し下さい」

「いえ、それにはおよびません」


 シズフェはそう言って首を振る。 


「ありがとうございます。シズフェリア様。ところで皆様はどうしてここに?」


 フィトクィアは首を傾げて聞く。

  

「ええと、それは、この国に異変が起きているみたいだからです……。それでヴィナン王子様が私に様子を見て来て欲しいと言われまして。それでこの国に来たのです……。ボンプさんにも伺いましたが、実際に何か起きているのですね。詳しい話を聞かせてもらえないでしょうか?」


 シズフェは要点をまとめて聞く。


「異変ですか……。わかりました。私が話せる事で宜しければ……」


 フィトクィアは頷いて言う。


「ありがとうございます。フィトクィア殿。まず、一つお聞きしても良いですか? ここにピュグマイオイの使者がヴィナン王子様の書簡を届けに来たはずですが、どなたが返事を書かれたのでしょうか?」


 シズフェリアはまず気になっている事を聞く。

 カラバでは異変が起きている。

 しかし、書簡には問題がないと書かれていた。

 誰が返信を書いたのか気になるのも当然だった。


「……。ええと、それは……」


 フィトクィアは目を伏せて考え込む。

 

「フィトクィア殿?」

「……、陛下の指示で私が書きました」


 フィトクィアは時間を置いてそう言う。

 なぜ、そう答えるのに時間がかかったのか気になる。

 そして、同時にフィトクィアから変な気配を感じる。

 

(えっ? 何? この感じ? どうして?)


 シズフェは変な気配を感じ戸惑う。


「そ、そうですか……。なるほど……。特に問題がないと書かれていましたが? どうしてでしょうか? 異変が起きていますのに」

「それは、私にも……。陛下の指示ですので。もしかするとヴィナン王子様に心配をかけたくなかったのかもしれません」


 フィトクィアは顔を伏せて言う。

 それはありえない話ではなかった。

 その国に起きる問題は基本的にその国が解決するのが一般的だ。

 異変の原因がはっきりしないのにわざわざ他国に危機を知らせたりはしなくても不思議ではない。 


「そうですか……。確かにありえない話ではないですね。ですが、ヴィナン王子様は異変に気付き気になされていました。ですので私達に異変を調査する事をお許し願えないでしょうか?」


 シズフェがそう言うとフィトクィアは再び考え込む仕草をする。


「私の一存で決めて良いかわかりません……。ですが、きっと陛下はお許しなさるでしょう。わかりました、シズフェリア様。陛下からは私が言っておきましょう。どうか異変の解決をお願いいたします」


 フィトクィアは少し迷うとそう言って頭を下げる。


「ありがとうございます。フィトクィア殿。それでは、もう一つ聞きたい事があります。異変で何か気になる事はありませんか?」


 シズフェはざっくりした事を聞く。

 聞かれた方も困るかもしれないが、来たばかりでありシズフェも何から始めて良いかわからない。

 とりあえず、聞くだけ聞いて、気になる事が出てきたら儲けものである。


「気になる事ですか……。そうですね……。実はこの国の北にある森の奥に魔女が住んでいるらしいのです。病を癒す者としてそれが気になります」


 フィトクィアははっきりと言う。


「えっ? 魔女ですか? それは初耳です!?」


 シズフェは驚く。

 それは初めて聞く情報であった。

 魔女は邪神を信仰する女性の事だ。

 一番有名なのは魔女の大母と呼ばれる女神ヘルカートの信徒達だろう。 

 彼女達の中には疫病を広める者もいるので、病を癒す者として気になるのも当然だろう。

 

「魔女ですか……。それは気になりますね。もしかするとその魔女が病を広めたのかもしれませんよ。シズフェさん」

 

 後ろで聞いていたレイリアが言う。


「そうね。調べてみた方が良いかも……。フィトクィアさん、情報ありがとうございます」


 シズフェはお礼を言う。


「いえ、このような事で良ければ。お役に立てて良かったです」


 フィトクィアは鼻から下を布で隠しているが目元からすごく喜んでいるのがわかる。


「魔女がいるのなら確かに怪しいな。しかし、それならボンプの口から真っ先に出て来てもおかしくないな。どういう事だ?」


 ケイナは首を傾げて言う。


「そうだな。あのおっさんはオーガの廃館が怪しいと言っているだけで魔女の事は何も言ってなかったな」


 ノヴィスも首を傾げる。

 

「うん、わかっている。ちょっとボンプさんに聞いてみよう。それじゃあフィトクィアさん。私達はこれで」

「はい、シズフェリア様。何かわかったら私にも教えてください。力になりたいと思います」


 フィトクィアがそう言うとシズフェは頷く。

 こうしてシズフェ達は王の館を後にするのだった。



 





  


 

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