第17話 カラバ王国1


 かつて、この地にはオーガが住んでいた。

 オーガは近隣の諸国の人間を攫い、奴隷とした。

 しかし、100年前にとある国の王子が近隣諸国の人々の窮状を見かねてオーガを打倒した。

 王子は攫われた人々から請われて、この地に建国した。

 その王国がカラバである。

 最初の人口は150名程であったが、今では200名を超えている。

 もちろんソノフェン王国に比べたら少ないが、住んでいる者達にとっては大切な場所だろう。

 シズフェ達が崖の道を上ると遠くに人が住んでいる街が見える。


「皆様! あそこに見えるのがカラバ王国です」


 馬車で向かっている途中、一緒に乗っているボンプが前方を指して言う。

  

「あれが、カラバ王国ですか? 城壁が見えませんね。どうしたのですか・」


 レイリアの言う通り、どこの国にもある城壁が見えない。

 あるのは麦畑を守るためにある柵のようなものだけだ。

 

「はは、実は先程の崖の道を作るのが精いっぱいで、城壁を作る余裕がないのですよ……。まあ、今まで魔物の被害がなかったので良かったですが」


 ボンプはそう説明する。

 カラバ王国は僻地あり、また様々な資源に乏しい。

 城壁を作るための石材資源もなく、そのため外から資源を運ばなくてはならなかった。

 そのため、歴代の王は道の整備をまずやらねばならなかった。

 特に一番近い国に行くには先程通った崖があり、その崖に通路を作るだけで莫大な資金が必要だったので、城壁を作る事ができなかったのだ。

 これまで、魔物の被害がなかったのは運が良いといえるだろう。

 

「多分オーガの影響だね。オーガは他の魔物にとっても凶悪だからね。いなくなった後でもその匂いがある場所には他の魔物も近づかないんだよ。でも、それもずっとじゃない」


 マディアがそう推理する。

 それはありえそうな事であった。

 竜の匂いがする所には基本的に他の魔物が近づかない。

 オーガは竜程ではないが、かなり強い魔物なのでゴブリン等は近づかなかったに違いない。


「成程な。だが、100年も無事なら良かったとおもうぜ。だが、ゴブリンにでっかい蜘蛛まで出て来た。これからは危険だろうな」


 ノヴィスは首を振って言う。

 ノヴィスの言う通り、これまで何もなかったのは運が良かったといえる。

 人の往来が少ない場所の方が魔物が出没しやすい。 

 街道からかなり離れたカラバ王国の周辺には魔物が多く出てもおかしくないだろう。

 

「ああ、そういえばあの蜘蛛なのだがな。どうも気になる……。少なくともこれまではいなかったのだろう?」

「えっ? あっはい……。その通りです。少し前になりますが商人の方が普通に来ていましたから。おそらくあのような蜘蛛はいなかったと思います。」


 ノーラが聞くとボンプは答える。

 つまり、異変が起きたのと同じころに蜘蛛が出て来た事になる。

 あの崖の道はカラバ王国へと行き来するために必要な場所だ。

 蜘蛛はまるで往来を邪魔しているようだとシズフェは感じる。


「他に被害者がいなけりゃ良いんだがな。どうなんだ?」


 ケイナが馬車を操作しながら聞く。


「それはわからないです……。そういえば頻繁に来ていた商人の方が来なくなったような」

「……」


 ボンプがそう言うとシズフェ達は顔を見合わせる。

 何となく嫌な予感がしたのである。 

 

「嫌な予感がするわね。でも、今それを考えても仕方がないわ。とりあえずカラバについてから考えましょう」

「そうだな……。もうすぐ着くしそれから考えよう。ところでおっさん、一応聞くけどカラバ王国には普通に入れるんだろうな」


 ケイナはボンプに聞く。

 その国の市民権を持たない者が、その国に入るにはその国の許可が普通は必要だ。

 カラバ王国はソノフェン王国と交流があり、その国の王子の使者なので入る事は出来るだろうが一応聞く。

 

「それは大丈夫です。そもそも外から人が来るのは少なく、外の事を知りたいので、皆様なら歓迎されますよ」


 ボンプは笑って言う。

 カラバ王国は僻地にあり、外から来る人は少ない。

 たまに他国の使者か、物好きな商人が来るぐらいである。

 外に出る人もたまにいるが、お金がかかり、生活が厳しいのですぐに戻ってくる。

 最近は誰も外に行きたがらないらしかった

 だけど、元々外の世界に興味がある者が多いらしく、珍しい客は歓迎されるようだ。

 

「そうなの? だったら良かったわ。お湯とはいわないけど水浴びぐらいはしたいわね。何日も体を洗ってないもの」


 シズフェは笑って言う。

 お湯に入浴できる施設がない国も多く、ソノフェン王国を出てからお湯で体を洗っていない。

 野宿の時は水浴びも難しく、体を拭うぐらいしかできなかった。

 宿に着いたら体を洗いたいとシズフェは思う。


「何だよ、だらしないな。シズフェ。俺なんか全く入らなくても平気だぜ」


 ノヴィスがガハハハと笑う。

 それを聞いてシズフェとマディアは溜息を吐き、レイリアは苦笑いを浮かべる。

 ノヴィスは風呂嫌いであり、何日も体を洗わない事が多い。

 たまに指摘すると洗うぐらいだ。

 出来れば臭いからもっと風呂に入れと言いたい。

 しかし、戦士なら体を洗えない環境にもなれなくてはいけないと思うので今は言わないでおくシズフェであった。 

 



 シズフェ達がカラバ王国に向かっている時だった、岩陰からその様子を伺う者がいる。

 目元を仮面で隠しているが、顎の柔らかさと小柄で細い体型から、女の子である事がわかる。

 また、その少女は左右に翼の飾りがある兜を被っている事から彼女を戦乙女ワルキューレのような出で立ちであった。

 だが、通常の戦乙女ワルキューレと違うのは兜も鎧も身を包む外套も全てが深い夜の闇のような黒い色をしている事だろう。

 

 闇の戦乙女ダーク・ワルキューレ


 それが少女を見た者に与える印象であろう。

 闇の戦乙女ダーク・ワルキューレの少女は遠くからシズフェ達を見る。

 

「ほう、あの大蜘蛛を倒したか……。あの戦乙女、使えるかもしれないな」


 そう言って少女は笑うのだった。

 


 

 

 

 

 

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